ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

全体討議北河大次郎1970年代に行われた鉄筋コンクリートによる補強が問題となってきているということですが、具体的にどのような問題が発生しているのか、詳しくご説明下さい。クラウディオ・モデナすべてではありませんが、いくつかの典型的な破損状況をご覧いただきました。1976年のフリウリ地震後には「箱」理論が確立され、木造の床と小屋組を鉄筋コンクリート造の要素に置き換えました。しかし、このことでいくつかの問題が発生しました。鉄筋コンクリート造と木造の剛性には差があり、異なる材料間の緊結方法も適切でなかったため、地震に対する応答についても好ましくない結果が生じています。多くの場合、均質な状態にはなっていませんでした。建設に関わる問題もあります。例えば、鉄筋コンクリート造のスラブを組積造に導入するためには、壁の一部を切り込む必要があります。こうすると床の荷重はうまく壁へと伝達されません。お見せした写真にもあったように、鉄筋コンクリート造の床が壊れずに残り、煉瓦壁が外方向に押し出された例があります。特にラクイラ(L’Aquilla)では、このような現象が顕著でした。当時の法律に従いながらも、1970年代の鉄筋コンクリート建造物は設計自体が適切に行われておらず、倒壊したのです。ここでは、屋根を木造から重たい鉄筋コンクリートに変えられていた教会がほとんど崩壊しました。ディテールや鉄筋の状態などの設計が適切でなかったため、たいへん重い構造体が衝突し合い、建物が破損しました。これに関連して、興味深い対照的な2つの例があります。板書1(板書1)1つ目は、壁の上に載せられた鉄筋コンクリート桁の断片が、まるでジェット機やミサイルのように外れて飛び出し、近くの建物にぶつかった大聖堂の例です。それに対して、自身による反対側の木造教会の被害はわずかでした。ここで明らかになったのは、必要なのは床の剛性を高めて構造応答を変えることではなく、面外方向の倒壊を防ぐことにあり、方法に基本的な問題があったことです。現在の法律では、木造の床の剛性を高め、信頼性の高い方法で床と壁とを接合すれば効果的であるとされています。2つ目は、大きな建物において当初からの屋根の中央部分が鉄筋コンクリートに置き換えられ、その両脇に従来の木造部分を存置させたという、同じ町の例です。ここでは木造部が倒壊し、他はそのままでした。このことから、全体を一体の構造にしておくことの大切さが明らかになったと感じました。(板書2)これほど単純ではないのですが、崩壊メカニズムについてお見せした例からも明らかなように、木部については、どこに荷重がかかっているか正確にわかります。壁を保てば、それで十分なのです。ラクイラには、たいへん単純な伝統技法があります。木部がアンカーとして機能するように組積造躯体から少し突き出すかたちになっているものです。これが壁、これが木部、これが壁を保つ均衡です。この単純な対策によって崩壊を免れました。(板書3)別の教会では、構造体が押し出されて衝突したことによる崩壊が見られました。この教会では、19世紀に部屋を造るために壁の一部が取り除かれました。その板書3板書2上に重い鉄筋コンクリートの桁が乗せられていました。鐘楼と本体が衝突して鐘楼が倒れ、教会を壊したのです。(板書4)このような影響も見られます。建物にこのような壁がある時、ここに切り込み、補強壁を造りました。この補強方法は面外の崩壊を防止するためでした。70第5章全体討議