ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

はじめに東京文化財研究所保存科学研究センターでは、現在さまざまな有形の文化財について保存修復に関する調査研究を行っています。その中で、主として明治以降に生まれた多種多様な近代の文化遺産の保護に繋がる基礎的な調査研究について、特に独立行政法人に移行した平成13年から、「近代の文化遺産の保存修復に関する調査研究」と題する研究プロジェクトを立て、研究の深化を図りながらその情報の共有化を図るため、毎年テーマを定めて内外の研究者を招いて研究会を開催してきました。この間、平成18年には近代の文化遺産の保存修復に関する研究を当研究所として重点的に行うことを内外に意思表示すべく、研究担当の「応用技術研究室」を「近代文化遺産研究室」と改称し、体制の充実を図ってきました。近代の文化遺産の保護に関してこれまで取り上げたテーマは、船舶、航空機、大型構造物、鋼構造物、コンクリート構造物といった構造物の保護はもとより、レコード・フィルム・テープといった音声映像記録メディア、油性塗料、洋紙、近代テキスタイルといった素材を対象とした作品等の保存修復に関する諸課題等を取り上げ、それぞれ『未来に繋ぐ人類の技』と題する報告書をシリーズ本として公刊してきました。文化財としての近代の文化遺産の保護の基本的な考え方は、平成8年に文化庁がまとめた「近代の文化遺産の保存と活用について(報告)」に一定の方向性が示されていますが、20年を経過した現在、モニュメントとしての遺産保存ばかりでなく、現役施設として従来のままの機能を維持または拡張し、あるいは用途転用、再活用を図るなど個々の遺産の特性に応じた幅広い多様な対応が求められるようになってきています。そのため、平成27年度にはこれまでの研究成果を一旦総括すべく保存と修復の理念をテーマに研究集会を開き、その成果報告書を昨年度に「近代文化遺産の保存理念と修復理念」と題して刊行したところです。しかし、近代の文化遺産については、ようやく研究の途上に着いたばかりといった感は否めません。平成28年度から当文化財機構の第4次中期計画(平成28年-平成32年の5ヵ年)が始まるにあたり、近代文化遺産研究室では、従来の成果の上に立って、さらに広く深く研究を推進する目的で、文化財指定が比較的進み保存修理実績も蓄積している煉瓦造建造物に再び焦点を当て、煉瓦造建造物の保存に当たっての留意点、活用を睨んだ構造物としての安全性確保のための構造補強例の紹介と解析、日本と同じ地震国のイタリアにおける煉瓦造を中心とした建築物の構造補強の事例研究等について第一線の方々から論考をいただき、合わせてこれまで当研究所を中心とした煉瓦造の建造物の保存修復に関する資料を取りまとめました。ここに関係者に感謝の意を表するとともに、本書が煉瓦造建造物の保存修復の実務にあたって大いに活用されますことを期待しています。今後とも当研究所では多くの事例を積み上げながら、近代の文化遺産の保護のあり方について研究を重ねて行きたいと考えています。関係各位のご支援ご協力をよろしくお願いいたします。平成29年8月31日独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所所長亀井伸雄3