ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

建築遺産の修復と補強に関する基準と技術:研究と応用クラウディオ・モデナパドヴァ大学教授イタリアにおける耐震対策の経緯このたびは日本にお招きいただき、また、歴史的建造物の保存そして耐震対策という難しい問題について共に考える機会をいただき、ありがとうございます。本日の講演の表題は、「建築遺産の修復と補強に関する基準と技術」です。歴史的建造物の価値をできる限り残しながら、破損した建物を修理し、安全性を高めるという課題に取り組んでいる、イタリアにおける状況をお伝えしたいと思います。特に、歴史的建造物の保存では、用途の維持すなわち活用について考えることが重要ですが、同時に適切な方法で、構造の安全性を確保する必要があります。過去には、この2つが対立することもありました。安全性を高めるために建物に手を加えた結果、失われるものもあります。歴史的建造物修理における「対立と相補性」(conflicts/complementarities)について考える必要があります。イタリアで建築基準法を所轄する公共事業省(Ministryof Public Works)と文化財保存を担当する文化遺産省(Ministry of Cultural Heritage)における現在の考え方や対策は、数々の地震被害の後になされた修復とその検証を通じて蓄積された経験に基づいています。イタリアでは1976年のフリウリ地震が大きな契機となり、耐震対策に関わる様々な試みが始められました。それは基本的には、当時の一般建築の工法や歴史的建造物修理の考えを踏まえ、文化財を現代的な鉄筋コンクリート造と同様に扱う一連のインターベンションでした。これは言わば大きな過ちでした。歴史的建造物が、大きな構造的な弱点を抱えていることを十分認識しないまま補強を行ったからです。その具体例として、2016年にイタリア中部で発生した地震被害の状況をスライドでご紹介します(スライド1)。ずいぶん多くの建物が倒壊しました。石造建造物の地震被害(スライド2)左は今回の地震被害、右は2009年の被害です。ほとんど同じ破損が起きています。イタリアの歴史的建造物で広く使われてきた組積造技術に対する理解の有無が、このような被害を招く大きな要因となりました。特に山岳地方では、強度の弱い目地で石を積んだ建物を強くするために手を入れたことが原因となり、多くの被害が発生しました。建物を改善するどころか、逆に状況を悪化させる結果となっています。(スライド3)右の写真の建物には、3つ時代の構造が見られます。もとの建物(奥の壁)、14世紀の補強(間の壁)、さらに17世紀の補強(手前の壁)と、何度も補強されているのですが、安全ではない方法がとられてきました。そして、今回の地震が起こりました。かつての補強として多く見られるのが、鉄筋コンクImpact of Previous Interventionsand Local VulnerabilitiesPOST SEISMIC SCENERYAmatrice (RI)Prof. Eng. Claudio ModenaVulnerabilities and learningsSM IngegneriaCENTRAL ITALY EARTHQUAKEImpact of Previous Interventionsand Local VulnerabilitiesProf. Eng. Claudio ModenaVulnerabilities and learningsPescara del Tronto (AP), 2016 Prefettura, L’Aquila (2009)SM IngegneriaAccumoli (RI)スライド1スライド247