ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

われた。観測はファザード部分や中央ドーム部分等で集中的に行われた。観測結果から固有周期や振動モードを求め、各部の剛性・質量や接続状況を確認した。さらに有限要素法による解析モデルの振動特性と観測結果を比較しモデルのパラメーターを調整することで、実物建物の特性を解析モデルに反映している。数値解析は、損傷調査の結果や教会建築によく見られる崩壊機構に基づき、地震時の崩壊する可能性が高い箇所として、ファザード部分・中央ドーム部分それぞれの梁間方向・桁行方向について、重点的に行われた。各部分を剛体仮定した極限解析と、各部分を有限要素法による弾塑性モデルに置換した静的載荷解析をそれぞれ行い、結果を比較して、耐震性を検討した(図4,5)。例えばファザード部分の桁行方向に関しては、極限解析でこの部分が建物前面に崩壊する機構を数パターン想定し、各パターンの地震係数(崩壊機構開始時の加速度と地動加速度の比)を求め比較した。また同部分を有限要素法によってモデル化し、非線形解析を行った。載荷荷重と変形の関係を求め、各変形における亀裂の発生箇所等を確認し、実際の亀裂箇所と解析調査を照合したところ良く一致した。また数値解析の結果を比較すると、極限解析で想定した崩壊機構のうち結果が有限要素法のものにおおむね一致するものがあり、両者の解析結果の整合性も確認できた。以上の検討から、ファサード部分は上部に載る鐘塔によって地震力が過大となり、また増築時の接続箇所で亀裂が生じやすくなっていること、また中央ドーム部分は身廊のヴォールト天井が、大きなスパンとともに上部に載るドームによる曲げ変形によって構造的に脆弱になっていることが明らかになった。この結果に基づき、ファザードの鐘塔および本体部分の接合を強化するために、既存のタイバーに加え、新たにステンレス製のタイバーが数段の高さに梁間方向・桁行方向に設置され、ヴォールト天井には、上部にアーチ梁(控え壁)を設置し、天井の構造性能を向上するとともに、壁との接合を強化した。そのほか、アプスの部分的な崩壊を防ぐために、アプス上部の壁内部に円周方向に沿って多角形状にステンレスロッドを設置された。これらの補強効果は、各部分の補強前後の崩壊機構について極限解析を行うことで、定量的に評価されている。4.2.スペイン要塞スペイン要塞はラクイラの北東部に位置する(写真9)。この要塞は、ラクイラがスペイン支配下のナポリ王国の有力都市であった16世紀に建設されたもので、ルネサンス時代の代表的な城郭建築遺構である。20世紀半ばに国立博物館に改修され使用されてきた。2009年に発生したラクイラ地震で被災、特に上層階の破損が著しく、壁が面外に崩壊し、部分的にヴォールト天井や床が崩壊したほか、内外の壁に剪断亀裂等が多数生じ、下層階の柱にも亀裂が生じた(写真10)。地震後、仮設のワイヤーや単管フレーム、木材などを用いて各所に応急補強が施された。また、被害状況の目視調査とともに、超音波伝達速度測定や赤外線サーモグラフィ測定による壁内部の損傷度合等の調査や、フラットジャッキを用いた現地載荷試験による材料強度の調査が行われた。振動観測と亀裂幅測定は、一定時間間隔及び余震発生時に行い無線でデータを送信するシステムで継続的に実施され、余震等による損傷の進展や補強前後の性能変化を確認するのに用いられた。また、これらの測定は温湿度測定と併せて実施され、温度上昇による固有振動数増加といった環境変化による影響を排除した上で、構造特性の変化をモニタリングできるようにしている。これらの調査結果及びこれに基づく数値解析の結果、以下の修理・補強が行われることとなった(図6,7)。まず、崩壊箇所の積み直し、石灰モルタルの注入を行う。さらに石積の壁には、高さ80cm毎に鉄プレートで補強した三段分の煉瓦の層が設けられ、また上部に鉄筋コン写真9スペイン要塞地震前外観写真10地震後外観41