ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

ページ
41/130

このページは 未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復 の電子ブックに掲載されている41ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

行われる亀裂箇所・破損箇所の積み直しや目地補修の他に、注入工法がよく用いられる。注入剤には既存の壁の材料特性に力学的・化学的に近い材料を使用するよう配慮がなされている。また、複数層からなる壁を一体化するための水平方向にピンニングする方法や、亀裂防止のためにステンレス製や繊維強化プラスチック製のバーを目地に挿入する方法、鉄筋コンクリートの層で壁を内外から挟む方法(ジャケッティング工法)などがある。ジャケッティング工法は耐久性に対する配慮や剛性・重量の過大な増加に対する注意が必要としている。建物を一体化するために床組や小屋組といった水平面を強化する場合には、木造床の上に厚板を重ねだぼで固定する方法や床梁や小屋梁にブレースを設置する方法などがある。これらは前述の壁と床組・小屋組の取り合いの強化も併せて行うことが求められる。また、木造の床組等に鉄筋コンクリートスラブを付加もしくは置換する方法は、剛性・重量の過大な増大に注意することが必要としている。ヴォールト天井も地震被害を受けやすい部分であるが、これに対する補強には伝統的な方法であるタイビームの設置や天井上面の壁との取り合い部に控え壁を設置する方法以外に、天井上面に炭素繊維や繊維強化プラスチックをエポキシ樹脂で貼付け、脆性的な破壊を防ぐ方法がある(写真7)。イタリアでは前述したように過去の地震で現代的な補強の欠陥が明らかになった経験から、現代的な補強方法だけでなく、タイビームや控え壁の設置など、伝統的な補強方法にも目が向けられている。日本では伝統的な補強方法は、例えば貫や土壁の増設などは既存構造との識別が難しく、出来る限りふさわしい時代設定の姿で建物を保存しようという、よく採られる保存方針と反することから、用いられない傾向がある。一方で識別も容易で、補強効果が高く物理的に小さくできるといった観点から、現代工法の補強を用いるのが現在の対策の主流である。この点、両国の保存方針も補強材選択に影響している可能性が指摘できる。4.現状の地震対策4.1.レッジョ・エミリア大聖堂レッジョ・エミリアはイタリア北部エミリア・ロマーニャ州に位置する都市で、この大聖堂は9世紀に建設された部分を核とし、その後増改築を繰り返してできた複雑な構造を有する建物で、主に煉瓦造からなる(写真8)。また、この地域は過去に何度も地震が発生しており、近年では1996年と2000年に地震が起き、大聖堂も損傷している。まず損傷調査により、身廊のヴォールト天井の、上部に建物中央のドームが載る部分と鐘塔が載るファサード部分に、多数の亀裂が集中していることや、ドーム上の小塔の柱にも亀裂が生じていることが明らかになった(図2)。また、建設後の変遷に関する歴史調査が行われ、建物の各時代の建設部分やその接続箇所などが確認された(図3)。現在のファサードは鐘塔とともに13世紀に付け加えられ、15世紀に鐘塔上部が増築されできたもので、建物中央に載るドームは初期に建設されていたものが17世紀に作り直されたものであることが分かった。さらに、各時代の建設部分の材料特性を把握するために、各部分で超音波伝達速度測定を行った。測定の結果、全体的に一様に良好な材料特性を有するが、一部、過去の修繕箇所などで特性にばらつきがみられ、また壁表面と内部で伝達速度が異なることから複数層からなる壁であることが分かった箇所もあった。そのほか伝達速度は、極限解析で使用する部分モデルを剛体仮定することが可能かの判断基準にもなっている。さらに、振動特性を把握するために常時微動観測が行写真7新素材を用いた補強(ヴォールト天井上面を炭素繊維等で補強(実験))写真8レッジョ・エミリア大聖堂外観39