ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

一方で、修理の担い手は、どこまで原則を守り、どこまで変更を許容したのか、検討過程を客観的に説明できることが望ましい。所有者、管理者、設計者、構造技術者、専門委員など、関係者の合意過程を記録に残すことができれば、将来の振り返りに役立つだろう。最後となるが、今年(2017年)は昭和52年にコンクリート補強が施された旧近衛師団司令部庁舎の工事から40年目にあたる。今後は設置した補強の維持補修についても、検討していかなければならなくなる。また、新たに補強を施す際には、耐久性の検証だけでなく、補強後のメンテナンスまでの配慮がほしい。耐久性の高い材料を使うこと以外にも、管理者にとっての点検のしやすさ、維持管理コストの抑制が望まれる。註1.煉瓦造の重要文化財の棟数は、157棟(近代の部947棟中)、登録有形文化財の棟数は329棟(11301棟中)である。2.同論文では、鉄筋コンクリート造による白華現象への対応については水分移動の遮断が有効であるとの考えが示されている(松尾2007)。3.筆者は当時、現場監理補佐として関わり、補強設置の様子を伺う機会に恵まれた。煉瓦壁に対して鋼板を貼るには、歪みのある煉瓦壁にアンカーを一定間隔で打ち、鋼板の孔に通して固定をすることとなる。鋼板同士の継ぎ目は溶接するので、板同士にズレが生じるのは望ましくなく、重量のある鋼板の位置調整には相当な苦労があった。内部仕上げの復旧時には、壁厚変更により生じた納まりの調整を行うため、主任が現場で詳細図を描いていた。点での取り合いとなる鉄骨補強と比べると、面で取り合うこととなる鋼板補強は、施工が容易ではないと思われる。4. 2017年1月20日清泉女子大学(旧島津侯爵邸)の構造補強についての聞き取り調査による(一般財団法人日本建築センター評定部審議役木林長仁氏への聞き取り、東京文化財研究所近代文化遺産研究室石田真弥氏による)。5.この際、打ち継ぎ部の一体化を図るために用いる異形鉄筋と煉瓦との隙間に充填するグラウトはセメントペーストまたはモルタル等無機材料を使用(有機系接着剤の経年変化を考慮)。6.事務室の最長削孔は14mである。7.「煉瓦は多孔質である爲、土中の水分を吸収して壁に濕氣を與へる。・・中略・・其の爲には地面より15~30cm上つた邊に横目地に防濕?を設ける。防濕?の材料は天然スレート、鉛板、アスフアルト其の他防水モルタル等である。」(八木1936)8.旧金澤陸軍兵器支廠は、平成2年の保存修理工事竣工後に重要文化財として指定された。参考文献?相川悠、松井敏也(2015)「煉瓦の吸水放湿特性にみる塩の影響及び保存修復材料の検討」『日本文化財科学会大会研究発表要旨集』pp.244-245.?井上正樹、飯島眞人、佐々木晴夫(1995)「中央合同庁舎第6号館赤れんが棟保存改修工事」『コンクリート工学』33(4), pp.35-43.?今関俊(2017)「シャトーカミヤの煉瓦躯体に施されていた修理」『文化財建造物研究―保存と修理』Vol.2, pp.33-45.?小川一郎(2010)「三菱一号館(我が国最初の近代オフィスビル)の復元~免震構造による煉瓦組積造建物の復元~」『コンクリート工学』48(10),TOPICS?川崎香織(2017)「第4回現場ワークショップ(シャトーカミヤ旧醸造場施設)に参加して―学生から見た保存修理実践の場の議論―」『文化財建造物研究』Vol.2, pp.105-109.?巻頭座談会(1989)「これからの建築文化の遺産をどう残していくか半澤重信、藤森照信、木村勉、横谷英之建築の技術」『施工』pp. 32-47.?木村勉(1997)「山形県庁舎及び県会議事堂の修復における構造補強」『建築防災』pp. 29-33.?公益財団法人文化財建造物保存技術協会(文建協)(2010)『重要文化財旧手宮鉄道施設(機関車庫三号ほか)保存修理工事報告書』公益財団法人文化財建造物保存技術協会?公益財団法人文化財建造物保存技術協会(文建協)(2016)『シャトーカミヤ旧醸造場施設保存修理工事(災害復旧)報告書』公益財団法人文化財建造物保存技術協会?朽津信明(2005)「文化財材料としての煉瓦の劣化」『マテリアルライフ学会誌』pp.7-11.?清水真一(1997)「文化財建造物の構造補強の考え方」『建築防災』pp. 2-7.?鈴木博之(2001)『現代の建築保存論』王国社?鈴木博之(2012)「歴史的建造物の保存・再生について」『公共建築』pp. 64-67.?多幾山法子、長江拓也、吉田亘利他(2007)「歴史的煉瓦造の保存・再生に向けたステンレス鋼挿入耐震補強」『歴史都市防災論文集』Vol.1,pp.203-208.?谷川恭雄、長谷川哲也、李聡子(1996)「近代建築物の補強・補修方法に関する技術の現状」『コンクリート工学』34(10), pp.5-13.?冨永善啓(2015)「文化財建造物の構造補強の考え方:実務からの発想」『建築の研究』pp. 6-11,?冨永善哲、渡邉智子(2016)第4章第2節『構造補強シャトーカミヤ旧醸造場施設保存修理工事(災害復旧)報告書』公益財団法人文化財建造物保存技術協会?中村雅治(2000)『煉瓦建造物の保存と修理ーわが国の煉瓦造文化財保存の現状と課題ー(平成10年度文化財保存修復研究協議会記録)』東京国立文化財研究所, pp.19-37.?西川忠、佐藤壮大(2013)「歴史的煉瓦造建築物の耐震補強工法の開発」『コンステックテクニカルレポート』No.16, pp.69-72.?西澤英和、金多潔(1989-1)「鉄骨構造の保存工学への応用-洋風煉瓦造の重要文化財建造物の耐震補強について-(その1)」『カラム』113,pp.71-78.?西澤英和、金多潔(1989-2)「鉄骨構造の保存工学への応用-洋風煉瓦造の重要文化財建造物の耐震補強について-(その2)」『カラム』114,pp.75-82.?西澤英和、平田文孝、金多潔(1993)「重要文化財同志社礼拝堂の構造デザインと構造補強について」『建築史学』pp. 30-53.30第3章煉瓦造文化財における保存修理について