ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

平成25年に修理が行われた重要文化財シャトーカミヤ旧醸造場施設の事務室では、煉瓦壁を削孔し6、ステンレス筋またはアラミドロッドを引張補強材として挿入、グラウト材で固定している。補強材挿入のための削孔は、無水削孔技術が使われている。3.7. PC鋼棒補強PC鋼棒の定着板を煉瓦壁の基礎部分に設けて、煉瓦壁天端より縦孔を掘削、PC鋼棒を挿入して定着板に取り付けの上、鋼棒を緊張させて固定する補強方法である。削孔技術は先述の樹脂アンカーと同一のものとなる。利点は、樹脂やグラウトを孔に流し込むわけではないため、補強部材の交換の際も、煉瓦壁の解体は最小限とできる点である。また、壁厚がない場合には、壁外で設置することもできる。課題はPC鋼棒の緩みについて点検が必要となること、壁頂部の支持力が不足していた場合、鉄筋コンクリート造の臥梁に置き替える必要があることがあげられる。重要文化財ではないが、平成22年に耐震改修が施された東京都指定有形文化財の清泉女子大学本館は、無水削孔技術を用いて煉瓦壁内部にPC鋼棒を設置、内外装の影響を最小限にとどめた(三菱地所設計、竹中工務店、2013、p.90)。また、北海道指定有形文化財の旧金森洋物店でも2階建の煉瓦壁の補強をするため、2階天井及び床レベルから削孔の上、PC鋼棒を挿入している。ただし、清泉女子大学本館との違いとして、目地補強を兼ねて孔にグラウトを注入している(朴、木下2000、p.55)。3.8.アラミドロッドによる目地補強既存目地にアラミドロッドを挿入し、引張応力を負担させることにより煉瓦壁の面外曲げ性能を高める補強方法である。重要文化財では、旧下関英国領事館、シャトーカミヤ旧醸造場施設事務所棟で用いられている(西川ほか2013、p.72)。シャトーカミヤ旧醸造場施設事務所棟では、開口上部・面外曲げ応力の多い箇所・ひび割れの発生している壁の目地を削り、アラミドロッドで補強している。特許工法ではあるが、アラミドロッドによる目地補強は、煉瓦壁部材の損傷を低く抑えている(長谷川2012、p.71)。また、煉瓦目地内部に補強材を埋めるため、補強部材は露出せず意匠性が高いこと、腐食・腐朽がなく耐久性が高いことも利点としてあげられている(富永2016、p.66)。3.9.免震上部構造を仮受けして地下にピットを構築し、免震装置を据え付ける工法。阪神大震災で倒壊した重要文化財旧神戸居留地十五番館の復旧工事の際に、また重要文化財東京駅丸の内駅舎(写真16)に用いられている。重要文化財慶應図書館は、平成29年5月現在、免震化のため、免震層周りの基礎に補強梁の設置を進めており、既存基礎への影響を最小限に留める検討をしている。重要文化財旧長崎英国領事館も本館及び附属屋を免震構造とする計画である。免震工法は、建物上部の補強を減らすことができるため、内外装への意匠上の影響を抑えることができる。ただし、地下ピット設置のため、基礎部分の補強が必要となる。また、前身建物の基礎や埋設された排水設備などが地下遺構として発見された際には、ピット構築のために発見物を撤去しなければならないため、どのように保存するかが課題となる。そのほか、免震によって建物の構造的な特徴が根本的に変わるため、当初の構造設計の意図が損なわれる課題についても指摘がある(長谷川2012、p.72)。写真15旧山口県会議事堂写真16東京駅丸の内駅舎27