ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

筋の挿入などがある。利点は室内の有効面積を大きくできること、基礎工事が比較的簡易に済むこと、ボルトのみの固定であれば、取り外し可能であることなどがあげられる(西澤1994-1、p.79)。課題は、内部仕上げ材を一旦解体する必要があり、復旧時は壁厚が鋼板分増すため、窓台などの内部仕上げ材の納まりを逐一検討しなければならないことである。また漆喰など湿式の仕上げでも、鋼板下地のため、施す際には下地に工夫が必要である。港区指定文化財の明治学院礼拝堂では、煉瓦壁全体にわたり厚9mmの鋼板を貼り付けている。先行事例としては、平成7年に修理が行われた重要文化財旧香港上海銀行長崎支店があったが、建物全体に対しての実施例は本事例が最初となった。33.6.樹脂アンカー補強煉瓦壁の頂部より鉛直に削孔し、樹脂アンカーを埋め込む補強。補強を壁内に納めることができるが、壁厚が必要である。利点は、内外への補強の露出がないことである。現在は、削孔技術も精度が向上し、15m程度まで可能となっている。特許工法となるが、無水削孔の場合は水を使用しないため、漆喰塗などの内部仕上げ材への影響を最小限とすることができる。ただし、無水でも露出した目地などからの粉塵対策、騒音対策が必要である。4課題は挿入したアンカーの取り外しはほぼ不可能であり可逆性が低いこと、挿入材の耐久性に留意が必要であること、削孔により壁内の帯鉄や配管などを抜く可能性があることがあげられる。樹脂アンカーによる補強は、重要文化財では旧山形県会議事堂(写真9)が最初の例とされる。同建物では先述のバットレス補強のほか、鉛直12.3mの削孔を有水で行なった。その後、隣接する重要文化財旧山形県旧県庁舎(写真13)でも、廊下アーチ部分、垂直、水平方向への樹脂アンカーによる煉瓦壁補強が行われ、平成9年に行われた日本ハリストス正教会(写真14)では、煉瓦壁体とコンクリート打ち継ぎ部の樹脂アンカーによる一体化が図られている。5平成7年に実施された重要文化財旧香港上海銀行保存修理工事では、側面パラペット部分を樹脂アンカーで補強し、平成16年に修理が行われた重要文化財旧山口県会議事堂(写真15)でも煉瓦壁の補強に樹脂アンカーが用いられている。写真11シャトーカミヤ写真13旧山形県旧県庁舎写真12シャトーカミヤ醗酵室外部バットレス写真14日本ハリストス正教会26第3章煉瓦造文化財における保存修理について