ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

ページ
26/130

このページは 未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復 の電子ブックに掲載されている26ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

ため、施工期間が短いこと、補強の重量が小さいため、大掛かりな基礎の補強を要さないこと、鉄骨部材は容易に取り外しが可能なため、将来の調査や機能の改変に対して柔軟に対処できることがあげられる。また、コンクリートの中性化やエフロレッセンスによる障害がない点も利点と考えられる。課題は、室内側に補強柱が露出すること、煉瓦壁と鉄骨補強の剛性や挙動の違いを留意する必要がある点である。鉄骨補強であるため耐火性能上の課題もあるが、耐火鋼や耐火塗装により対策が可能である(西澤1994、p.82)。そのほか、平面が複雑に入り組んでいる建物への適用例が課題としてあり(細野1982、p.56)、鉄骨補強設置時の搬入・設置方法を考える必要がある。さらに、「煉瓦壁自体の補強を等閑視すると煉瓦がはじけ散る事態が生じる。そういったことが東日本大震災の被災地で指定外の煉瓦造建造物でみられた」(長谷川2012、p.70)との指摘もあり、建物全体を鉄骨で補強しつつ、ほかの補強を組み合わせて複合的な対策を取る必要性がある。重要文化財ではないが、平成14年に竣工した横浜新埠頭赤煉瓦倉庫(写真3)の改修工事では、階段室まわりの耐震コア化のため、鉄骨架構を内部に構築した(西澤1997、p.38)。また、平成20年に竣工した重要文化財旧手宮鉄道施設機関車庫三号では、内部に鉄骨フレーム補強を設置している(写真4~6)。規模の小さい建物ではあるが、鋼管柱を用いたほか、補強柱・梁位置を開口位置との兼ね合いなどから慎重に決め、照明による効果も検討することで、補強を目立たなくする工夫がなされている。鉄骨補強は、多くの文化財で用いられている。現在では手法として定着した補強方法であるが、その出自は「新ボキャブラリー」(細野1982、p.52)として扱われていた経緯からすると、考案から実施にいたるまでの関係者の取り組みは、高く評価されるべきと思われる。3.3.ステンレスピン補強壁体補強のため、ステンレスピンを壁に対して斜め45度の角度で打ち、煉瓦同士を縫合し固める工法。利点については、「施工後の煉瓦壁の外観が元の状態からほとんど変化しない」一方で、「微小ながら煉瓦の一部断面欠損を伴うので、煉瓦自体を文化財として完全保存する必要がある場合には注意が必要」との留意点が述べられている(多幾山ほか2007、p.205)。また、可逆性にこだわったとして、将来的にピンを撤去すること写真3横浜新埠頭赤煉瓦倉庫写真5旧手宮鉄道施設機関車庫三号鉄骨フレーム補強写真4旧手宮鉄道施設機関車庫三号写真6旧手宮鉄道施設機関車庫三号鉄骨フレーム補強24第3章煉瓦造文化財における保存修理について