ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

捉える視点を養うために、煉瓦造建造物に造詣の深い長谷川直司氏に「煉瓦積み構工法の技法と価値」を寄稿していただいた(第2章)。もともと今回の調査では、積み直し、差し替えの判断の拠り所となる基準について検討を進めていたが、最終的には個々の劣化や構造の特性を観察・分析し、現場ごとに判断するのが妥当と考え、その判断の助けとなるよう、まずは修理理念に関係する長谷川氏の論考を掲載し、具体的な手法については、第6章の事例集の中で、劣化状況の分類手法を紹介するに留めた。これは、修理・補強の方針を決める際に、工法のメニューありきではなく、まずは価値を見極める姿勢が重要であるという木村勉長岡造形大学名誉教授からのご指摘にも適うものと考えている。第3章は、井川博文氏による、煉瓦造建造物の保存修理に関する論考である。これは4つの研究テーマすべてに関わると共に、表1の『レンガ文化財の保存修復』に掲載された中村雅治氏の論考をアップデートしたものと位置づけることができる。また、第6章の事例集で扱う事例同士の関連性を示す内容にもなっている。第4章は、現在イタリアのICCROMに派遣されている西川英佑氏による、イタリアの煉瓦造建造物の耐震事情に関する論考である。煉瓦や石材を用いた組積造建造物が数多く文化財として保護され、その構造上の課題と長年向き合ってきた地震国イタリアの経験が紹介されている。ここでは、わが国の現状も念頭におきながら、イタリアの煉瓦造建造物の保存と修理に関わる法的枠組み、考え方、手法、実例が紹介されており、今後のわが国の煉瓦造建造物の耐震対策を考える上での基本情報になりうると考えている。第5章は、「日伊における歴史的な組積造建造物の震災対策」をテーマに、平成29年2月23日に東京文化財研究所で開催した研究会の記録である。まずは、構造工学が専門で、平成28年8月及び10月の地震で被災したイタリア中部の復興にも深く関わっているパドヴァ大学のクラウディオ・モデナ教授によるイタリアの耐震対策に関する発表を収録している。日本からは文化庁で震災対策を担当している西岡聡氏より、日本の状況について説明があった。当日はわが国の文化財建造物の震災対策において中心的な役割を担っている研究者、実務家が多く参加し、2つの発表の後に討論を行った(写真)。最後に第6章では、1年間の事例調査で収集した情報を整理し、事例集としてまとめている。上記4つのテーマを念頭に置いて、文化財関係者が管理及び修理を円滑に行うための基礎知識をまとめると共に、修理の方針や手法を検討する上での参考事例を幅広く収録している。なお4つのテーマのうち、「目地の仕様」と「防水・防湿対策」については、十分な数の参考事例を収集することができなかったため、扱いが小さい。この点については、今後の課題としたい。今後は、ここに示した研究成果が煉瓦造建造物の適切な保存、修理に有効であるのか、改めて検証が必要であると考えている。本書を修理現場で幅広く活用していただき、新たに浮かび上がる課題等について忌憚ないご意見をいただければ幸いである。写真研究会の様子9