ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

原は困難との判断のもと、以下のような補強案が検討さ註れた(図7-2)41。1東西の煉瓦壁面が構造的に大きな弱点であったため、東西の煉瓦壁面と列柱間の天井と小屋組の間に鉄骨水平トラスを設置する。2鉄骨水平トラスを支持するため、列柱は鉄骨に改め、基礎をコンクリートに変更する。3南北妻壁面にRC造の壁面を新設する。4来賓室や正副議長室が配されている南棟および議場演壇上部に鉄骨水平トラスを設置する。5煉瓦壁の亀裂部分にエポキシ樹脂を注入し、鎹状の鉄筋で埋設縫合する。この補強案では、構造補強部材が見え隠れ部分に設置されるため、構造補強の形跡を隠すことができるというメリットがあるが、同時に以下のような問題点を抱えていた。1壁面と列柱の間に鉄骨水平トラスを設置するために天井を数十cm下げることで、内部空間が大きく変わる。2列柱を鉄骨へ改める必要がある。3両妻壁にRC造の壁体を新設するため、内装材が失われるとともに、壁際の当初材が一部切り縮められる。?変更後の補強計画バットレスの設計に当たっては、以下の点が特に留意註された43。1可逆性のある補強とすること。2本体に使用されている素材とは異なる素材を使用し、後設であることが判別できるようにすること。3外壁に補強部材が現れることになるが、可能な限り壁と接する面積を小さくし、本体の意匠性を損なわないようにすること。4本体のデザインと競合することがないよう、外形を単純化し、装飾的な意味を持たせないようにすること。?バットレスの形状についてバットレスデザインの検討は、文化財建造物保存修理の技術者と設計事務所が共同で行った(図7-4)。バットレスを単純な三角形の形状にすると、煉瓦壁面と接する面積が大きくなるため、バットレスを支持する支柱のない形状が検討された。また、見え掛かりを良くするために、屋根の勾配に合わせて煉瓦壁と緊結させ、壁面からある程度離れた位置(北側の突出部の位置:約2.7m)から垂直方向に下ろす形状が最終的に採用された。そして、形状をより単純化させるために、H形鋼の?補強方法の変更の経緯半解体調査により、大きく改築されながらも、当初部材が良好に現存していることが判明した(写真7-3)。取り外された部材も床下などから発見されるなど、当初の姿に復原するために必要な情報の多くが本調査により明らかになった。そのため、構造補強案の再検討を行い、最終的に内部空間を復原し、補強は外部のバットレスで註行う案にまとめられた42。写真7-3解体中議場内部東側(写真提供:公立大学法人長岡造形大学木村勉名誉教授)図7-4バットレス意匠検討(出典:重要文化財山形県旧県庁舎及び県会議事堂保存修理工事報告書1旧県会議事堂編)106第6章煉瓦造建造物の保存と修復に関する事例集