ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

ページ
104/130

このページは 未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復 の電子ブックに掲載されている104ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

してバットレス補強を行った最初期の事例である旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎では、周囲からは確認が難しい位置に補強部材を入れ、外観に配慮している。また、前述の補強方法と同様に壁内補強も合わせて実施されている。?壁内補強建造物内外観ともに保存を図り、煉瓦壁内に補強材を入れる方法。ステンレスピン挿入(1990年:旧金澤陸軍兵器支廠兵器庫)(写真6-4)、鉄筋挿入(1995年:山形県旧県会議事堂)、PC鋼棒挿入(2001年:誠之堂)の順に工法が開発されている。いずれの方法も壁内を削孔する必要があり、ステンレスピン挿入ではピンを固定するためにエポキシ樹脂などが使用され、鉄筋挿入でも同様にエポキシ樹脂やセメントスラリーなどが使用されている。これに対して、PC鋼棒による補強では、壁の底部と頂部で締め付ける工法のため、壁内を充填する必要がなく、鋼棒が劣化した際には交換も可能である。削孔技術については、削孔距離が長くなると、削り取った煉瓦(ガラ)を引き上げることが難しいため、削孔位置に合わせてガラ出し穴を壁面に設ける場合がある。また、削孔時機械の熱を取り除くため、水を流し込んで機械を冷却する有水削孔技術と、特殊な冷気などを機械内に送り込んで冷却する無水削孔技術があるが、前者の場合、内壁面から水が染み出し内部意匠を汚す危険性がある。無水削孔では、壁の隙間から削りとった煉瓦の粉末などが室内へと流れ込むことがあるが、目止めなどで対応することが可能である。?目地補強目地の一部を削り取り目地内で補強する方法。補強には、アラミド繊維を使うことが多い(2014年:旧下関英国領事館)(写真6-5)。表面目地材料の一部を除去し、アラミド繊維の挿入と目地材の置換を行い、目地せん断強度の向上と煉瓦壁の面外曲げ耐力を向上させる工法である。この工法では、煉瓦の損傷を回避するとともに目地の改変範囲も限定的である。ただし、改変部分は不可逆で目地材の色や意匠を保持するために細心の注意が必要である。?免震・制震免震・制震装置を建造物基礎下などに設置し、建造物が受ける地震力を低減させる方法。煉瓦造建造物では、阪神淡路大震災により倒壊した旧神戸居留地十五番館の免震補強工事が1998年に実施された。その後、2002年に大阪市中央公会堂、2012年に東京駅丸の内駅舎などの大規模煉瓦造建造物で実施されている。建造物を解体しないまま地下空間を造り、免震装置を設置するため、根積煉瓦などの基礎構造は改変されることになる。6.3.まとめこれらをまとめると図6-1、6-2のようになる。写真6-4ステンレスピン挿入写真提供:(国立大学法人筑波大学社会工学域藤川昌樹教授)写真6-5繊維素材が埋設された壁面(青丸印の目地の段に繊維が埋設)(シャトーカミヤ旧醸造場施設)102第6章煉瓦造建造物の保存と修復に関する事例集