ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

6.構造補強工法と現状の課題6.1.はじめに6章以降は、煉瓦造建造物の組積技術を保存した構造補強事例の紹介を行う。まず、本章でこれまでに実施されてきた煉瓦造建造物の構造補強方法について、構造補強工法と優先的に保存された部位の関係を整理し、現状の課題にも触れる。また、7章では、今後の煉瓦造建造物の構造補強を考える上で参考になりうる事例をいくつか紹介する。6.2.構造補強の種類煉瓦造建造物の構造補強は主に、煉瓦壁の強度を高める強度補強方法(内部補強、外部補強、壁内補強、目地補強)と地震の力を低減させる地震力低減方法(免震、制震)の2つに大別することができる。以下に各補強方法について紹介する。?内部補強建造物内部から構造補強材を新設し、外観意匠や景観を積極的に保存する方法で、大きくRC造補強(1977年:旧近衛師団司令部庁舎)(写真6-1)、鉄骨補強(1981年:同志社彰栄館)、鋼板補強(1990年:同志社礼拝堂)、「ハウスinハウス補強」(2007年:旧舞鶴鎮守府兵器廠弾丸庫並小銃庫)(写真6-2)の流れで工法が変遷した。これらのうちRC造補強は、重要文化財建造物の構造写真6-1 RC造で内部から補強された壁面(旧近衛師団司令部庁舎)補強が本格的に実施されるようになった1970年代から実施されている。RC造で補強された旧近衛師団司令部庁舎の内壁側の煉瓦は、補強により完全に隠れている。また、内部から鋼板にて補強された同志社礼拝堂でも、建具の取り合いの変更や壁厚の増加により、当初の内部空間は失われている。さらに、補強壁が煉瓦壁と一体化しているため、将来的にRCが劣化した際、煉瓦壁を完全に残しながら、補強部材のみを撤去することが困難である。上記の補強方法は、構造形式が実質的に煉瓦造からRC造に変更されるという難点もある。一方、鉄骨補強は、同志社彰栄館において重要文化財建造物として初めて実施された。RC造での補強工法と比較すると、内壁の変更箇所は煉瓦と緊結させる箇所に限られ、内壁の大部分を保存することが可能となった。ただし、鉄骨補強の場合は、壁内に鉄筋を挿入するなど、他の補強方法と合わせて実施されることが多く、表面上の変更は軽微であっても、壁内では広範囲で補強工事が行われることになる。こうした経緯を踏まえ、近年では、壁面から補強部材を独立させ、補強部材でもう一つの内部空間をつくり出しながら二階床面などを支える「ハウスinハウス補強」が行われるようになった。この工法では、鉄骨補強と同じく壁面補強が広範囲に行われる場合があるが、躯体表面への影響は少ない。ただし、内部空間を大きく変更するため、補強部材の意匠性に十分配慮する必要がある。?外部補強建造物外部から構造補強材を新設し、内部意匠を積極的に保存する方法で、大きく分けてRC造バットレス工法(1989年:旧名古屋控訴院地方裁判所庁舎)(写真6-3)と鉄骨バットレス工法(1995年:山形県旧県会議事堂)の2種類がある。いずれも建物の内部意匠の保存を優先する場合に用いられることが多いが、その反面、外壁に補強部材が現れるため外観に留意する必要がある。重要文化財建造物と写真6-2 RC造の構造躯体が設置された空間(旧舞鶴鎮守府兵器廠弾丸庫並小銃庫(まいづる知恵蔵))写真6-3中庭に面した3階部分にRC造のバットレスを設置(表面を煉瓦を貼り付けている)(旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎)101