ブックタイトル未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技17 煉瓦造建造物の保存と修復

5.7.大ばらし名称:誠之堂建設年:大正5年(1916)構造形式:煉瓦造、一階建、スレート葺建築面積113.30m2所在地:埼玉県深谷市起会字唐言110番3所有者:深谷市指定・登録(指定・登録年月日):重要文化財(2003.05.30)工事期間:平成10年度?平成11年度図5-10大ばらしの切断位置出典:誠之堂・清風亭移築修理工事報告書写真5-28大ばらし最大の壁面出典:誠之堂・清風亭移築修理工事報告書切断跡切断機固定跡写真5-29切断箇所の現状写真5-30 RC造臥梁設置のための煉瓦壁面切断出典:誠之堂・清風亭移築修理工事報告書?補修の経緯渋沢栄一の喜寿を記念し、世田谷区瀬田に建設された誠之堂は、土地の売却に伴い、平成9年10月に渋沢栄一の生誕の地である埼玉県深谷市へ移築されることとなった。移築にあたり、従来の煉瓦造建造物の移築工事にならい、煉瓦を1本1本バラすことも検討されたが、高度な組積技術(不揃いの煉瓦をあえて使用して、表面に微妙な凹凸をつけて積む)を保存するため、運搬可能な範囲で極力少ないパーツに壁面を切断し、移築が註行われた(写真5-28)38。?工法の説明水平方向は水平目地の位置で切断され、垂直方向は、煉瓦の大きさにバラつきがあり、縦目地の位置できれいに切断することが難しいと判断されたため、各段の煉瓦を貫くように切断された(図5-10)(写真5-29)。ただし、異形煉瓦が使用されている開口部や隅部は、切断面になることを避けている。組み立ての際には、煉瓦壁をグラウト材により接着し、垂直方向にPC鋼棒を挿入することで壁面補強を行っている。また、基礎や壁頂部はRC造へと改められ、RC造臥梁部には、もとの煉瓦壁面を臥梁表面に貼り付けることで外観が整註えられた(写真5-30)39。?所見煉瓦造建造物の移築保存工事の先行事例(例えば昭和39年の日本聖公会京都聖約翰教会堂)では、煉瓦を1本ずつ解体し移築先で再び積み直す方法がとられてきた。しかし、誠之堂では、壁面を大きく分割する移築方法が採用されたため、組積技術を保存することができた。また、切断された壁面をつなぎ合わせる際に、煉瓦または目地の切断跡をあえて繕わず、移築された痕跡がそのまま残されている。100第6章煉瓦造建造物の保存と修復に関する事例集