ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

(3)高雄(台湾)最近興味深いと思っているのは台湾の保存事例である。台湾は、いろいろな事情があって世界遺産に登録されていないが、日本の植民地時代のものが非常にうまい形で残されている。それを高雄の事例で紹介する。高雄港をめぐる観光船もある。2008年に廃線になった臨港線の高雄港駅と操車場、関連する倉庫群と桟橋とが残され、保存・利活用されている。写真7はTICCIH台湾での見学会のときのものだ。施設だけでなく駅舎に入ると切符や切符切り、日誌や帳簿類まで、運用されていた当時のさまざまな品物や備品類が残り、いまでも現役で使われているようなたたずまいがある。外の操車場にはプラットホームがあり、レールも敷かれ、機関車・車両類が展示されている。人が歩くところはボードを張って歩きやすくしているが、レールは残している。レールを撤去したところには季節の草花を植えている。草花の植え方はレールの方向性を意識して植えられている。憎いと思う。場所性を意識しながらデザインし、残している。ベンチにも工夫がある。よく見れば、トロッコの台車をベンチにしている。ベンチは当然、軌道の上だ。人が座っていたので、すぐに動かせるものか否かは確認できなかったが。高雄の事例ではないが、最近再開発が決まった台北の機関車工場の事例では、道路を通す場合でもレールの軌道敷きを意識し、かつての工場や建物の配置形態がわかるような形で、再開発することが決まったという。再開発でどのような用途でどのような建物が建つのかは不明だが、少なくとも道路網や敷地割りの中に、過去との連続性を辿れるようにするようだ。重要な建物などは保存されることを考えると、場の記憶の継承と歴史的連続性は保つ計画意図が感じられる。高雄港の倉庫群もいろいろ工夫されている。やや遠目で見たときはサイケデリックな色調で外壁が塗られていることに驚いたが、近づいて見たら大きなビニールシートに印刷した絵を、鋲で留めていたものであった(写真8)。空間の雰囲気をダイナミックに変えるひとつの工夫と感じた。修復の間に合わないところは応急的な修理をし、利活用を臨機応変にしていた。倉庫内はひとつの空間なので、さまざまに利用できる。おみやげ屋さん、レストランはもちろんのこととして、イベント空間、映写室、研究会場、またインフォメーションなどなど。屋根が落ちた倉庫でも、外壁が残っているので閉ざされた空間となり、舞台上部にシートを張って野外舞台的に利用していた。面白い空間演出であっ写真7臨港線旧高雄駅の内部写真8雰囲気を盛り上げる倉庫壁面のデザイン・シート近代文化遺産の保存理念と修復理念―産業遺産の利活用を通して29