ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

無形の様相、社会遺産・文化遺産をも含むとしている。引用は長くなるが、今日考えられている産業遺産概念の内容を知る意味で、要点的に紹介しておく。「産業遺産は、関連する機械類、物あるいは文書類ばかりでなく、サイト、構造物、複合施設、地域や景観からなる。それは、製品の過去の生産工程、あるいは継続している生産工程、原料の採り出し、それらの商品への変換、および関連しているエネルギーや輸送インフラの証拠を提供する」「産業遺産は、古代であろうと現代であろうと、産業活動の過程が、原料の自然供給源、エネルギーおよび生産してより広い市場へ製品を配送するための輸送網に依存するので、文化面での環境と自然環境の間の深い結びつきを反映する」「それは、動かせないもの、動かせるものの両方の有形の価値あるもの、また技術的ノウハウ、職場や働く人の組織のような無形の様相、そして地域社会の生活を形づくり、また一般に社会全体や世界に大きな組織上の変化をもたらした錯綜した社会遺産や文化遺産を含む」WGでは、統一見解やある一定の共通項、共有部分を整理したいと思っていたが、中身を検討してゆくと、国際機関においても産業遺産概念というのは検討途上で、定着したものになっていないことがわかる。このような状況から、保存とか修復理念を導き出すことは難しい、とWGの報告ではまとめられた。しかし今回原稿を書きながら、ダブリン原則を生かすような形で、以下のようにとらえてみたらいかがだろうか、と考えた。時代を経るにしたがい産業遺産概念は、包括的総体的な規定になった。一言でいえば、生活・産業に関わる世の中全体が産業遺産の対象であり、それは自然環境をも包含し、宇宙空間をも射程においているといえる。傾向としていえることは、産業遺産をより総合的に理解し把握していこうという姿勢がうかがえるが、対象は拡散する。産業遺産概念の包括的なとらえ方としては正しいと思うが、対象は絞り切れなくなる。一般的にいえば、あらゆる対象には社会関係があり、自然環境との関りをもつ。このようなことは、憲章を検討した委員は当然理解しているはずである。そこで次のように考える。ある産業遺産が検討対象にあがった場合、その価値や意義について、上記に記した内容を含め、できうる限りあらゆる観点から個別具体的に検討することが必要であることを、ダブリン原則は述べているのではないか、ということである。ダブリン原則を、産業遺産の範囲や内容を定める“規定概念”ではなく、産業遺産の状況を理解する“認識概念”として考えるのである。そうすることによって、産業遺産の意義や価値を、より広い枠組みの中から検討でき、従来の専門枠内でとらえていた意義や価値から解放されて、あたらしい意義付けや価値が見出されるのではないかと思う。2.建築・土木・産業遺産の相違からみる保存・修復理念の相違産業遺産の保存理念と修復理念を、建築遺産、土木遺産、産業遺産の相違を通して考えてみる。ここでは相違をわかり易くするため、境界領域の検討は省く。建造物という言い方がある。建造物の「建」は「建物」を意味し、「造」は「構造物」のことと理解している。土木の世界には戦前、構造物の設計には「用・強・美」が大切で、「用強美の三位一体論」といわれたことがある。「用」近代文化遺産の保存理念と修復理念―産業遺産の利活用を通して23