ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

れる。?虫害これは言うまでもなく、虫が原因となって起こる物である。?インク焼け没食子インク(Iron gall ink)を使って書かれた紙や羊皮紙が劣化する現象である。没食子インクにはタンニン、硫酸鉄水溶液、アラビアゴム等が含まれており、書き写されたインクが大気中の酸素と反応し、基材(紙や羊皮紙)に「焼き付いた」ようになり、水に流れなくなる特徴を持つ。しかしこれは劣化の要因でもある。劣化はインクに含まれる硫酸による酸化劣化であり、紙の主成分であるセルロースの加水分解を引き起こす。もう1つは鉄イオンが直接、あるいは触媒となって酸化反応が起こりセルロースを劣化させる。劣化が進むと書き写した部分や周辺部が茶色に変色し、字の部分が剥落してしまう。これらの劣化状況に対してそれぞれ、対処する手法は異なるが、複合的な劣化状況という場合もあり、現物を見ながら対応している現実がある。また、少し前までは、酸化劣化が主な原因とみなされ「紙が茶色い」「紙がぱりぱり」等というとすぐ「脱酸しなさい」と言われる事が多かった様に思う。しかしながら、最近、何でもかんでも脱酸すれば良いのか?と言われる様にもなり、若干風向きが変わりつつある。これはもちろん脱酸が一概に悪いと言っている訳では無い。すべからく脱酸で問題が解決すると思ってはいけないという事であり、もっと細やかな観察のもとに処理方法を考えるべきであるという事である。また、酸化劣化していると思われるものでも、すぐに脱酸処理を施す必要があるのかどうかをきちんと判断しなくてはならない。この背景には、現在行われている脱酸処理で用いられている薬剤が、長期的な目で見た際に、資料への影響に確信が持てない事が理由として挙げられる。今後はそれらについて、息の長い経過観察が必要であろう。3.海外における洋紙の修復今回の研究を進めるに当たり、メキシコとカナダの国立公文書館において、書籍類の保存と修復について調査を実施したので以下に紹介する。写真1 19世紀前半の書類写真2没食子インクで書かれ劣化したサイン6