ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

●保存処理を行う際に例えばこういうものの保存はこういう方法がいい、あるいは虫がいる、カビが生えているから燻蒸処理をするのがいいなどとされています。その処理は一面から見れば非常に有効ですが例えばサンプルからDNAを採取したり微量な元素分析を行ったりといった最新の研究手法を行う中で、燻蒸したものからはDNAはとれなくなってしまうということがあります。ですから処理をすることを単眼で見るのではなく、未来のいろんな調査、研究の人にとって望ましいかという複眼的な発想で考える必要があると思います。特に浮世絵などは微妙な酸とアルカリ、pHによって発色が成り立っているものがたくさんありますので、そういうものに対してキャリアとしての紙の保存とともに、そこに表現されているものの情報をどうするかを考えていただきたいと思います。また、例えば脱酸や燻蒸を行わなくてはならない際には処理前に必ずもとのデータを取るという流れを普及させていかなければならないと思います。DNA、元素分析などが燻蒸することによって将来的に測定できないということが起こってしまうというのは、誠に残念なことであると思います。ブックキーパーというものが将来的にDNAが取れなくなるのか、そこは私もよく分かりません。今現在私どもが一番のターゲットとしているのは紙資料の劣化抑制、利用可能な状態で保存する、利用可能な状態にしていくということです。紙の酸性化、セルロースの分解を抑制するための脱酸性化という話になってまいりますので、文化財といったマスターピースと大量にあるコレクションというものをどういうふうに区別して考えていくか、保存していくか、その両者のバランスを取っていく必要があるのではないかと考えます。(横島文夫)●処理対象の選定と劣化要因、処理費用について例えばブックキーパー法の施工の対象外の選定ですとか、劣化している資料をどのように選択して、どのように補修内容を選定しているのでしょうか。また、紙媒体のさまざまな劣化要因を考えた場合に、特に行政文書の場合、簿冊のとじ方による物理的な損傷というものが大変大きな問題かと思っております。例えばこのような問題に対してどのようなお考えでいるのでしょうか。また差し支えなければ1冊修理するのにどのくらいのコストが掛かるのか教えていただきたいです。1点の簿冊に対して、ほぼ全ページを見るような作業を事前に行います。そこにあるのがガリ版なのか、カーボンなのか、あるいは手書きの万年筆なのか。その中にこんにゃく版であったりジアゾタイプであったり、脱酸性化したらいけないのであろうもの、あるいは脱酸性化した後挙動が分からないような材質が出てきた場合には、一旦それを保留するといった作業をかなり細かにやっていきます。その作業は2名で行っていますが大変時間をとるものです。コンピューターに重さや厚みなどデータを入力すればすぐに金額も出るようなシステムを組んでおり、そこに紙質・インクが何とコメント欄に書いていって、それを元に破れ、欠損、折れなどを総合的に見ていって、脱酸性処理がOKか、76