ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

洋紙の保存と修復中山俊介東京文化財研究所保存修復科学センター近代文化遺産研究室室長1.はじめに近年、我が国において、山本作兵衛画の筑豊の炭坑画が世界記憶遺産に登録され、また国の重要文化財に洋紙を使ったノートが指定されるなど、日本においても洋紙が使われた文化財が注目されるようになり、それに伴い洋紙の劣化が問題視される様になってきた。当研究室では、そのような状況を鑑みて、今年度(平成26年度)は洋紙の保存と修復に関して、調査研究を行い、関係者を招いた研究会を開催した。以下にその結果を報告する。2.洋紙を使った近代文化遺産の保存と修復洋紙が使われた近代文化遺産としてはこれまでも様々な物が国の重要文化財に指定されている。代表的には?日本各地(京都府、山口県、埼玉県、群馬県)の行政文書類?近代教科書関係資料?東京大学史関係資料らがある。また、これら以外にも、作成年代が江戸期から明治期にまたがっている資料類の中には恐らく洋紙が含まれる物も存在すると思われる。これらの紙資料に加えて今後はさらに洋紙を使用した文書類の指定が増える事は容易に想像がつく。洋紙が使われている書籍に関しては、以前から修理の対象となっており、すでにかなりの修理がなされている。もちろんこれらは経年劣化が進んでいる書籍である為に修理されているので、文化財として修理されているわけではないが、古いもの故に大事に扱われていると思われる。しかしながら、やはりそこには文化財としての修復との違いがあるのは明白である。それでは、これら洋紙を使った文書類の劣化にはどのようなものがあるのであろうか。?酸化劣化これが最もポピュラーな劣化と言って良いであろう。紙が酸化する過程としては幾つか考えられるが、一番多いと思われる酸化の原因は硫酸アルミニウムである。硫酸アルミニウムは、紙を製作する際、インクの滲み止めとして使用されるサイズ剤と呼ばれる薬品のバインダーとして多く使われている。その硫酸アルミニウムが紙の中で加水分解することで硫酸が生じ、酸化の原因となる。またそれは、紙の繊維(セルロース)を痛め、紙をぼろぼろにする。次に影響するのが空気中に含まれる二酸化硫黄と窒素酸化物が原因となる酸化である。二酸化硫黄は化石燃料の燃焼により、また窒素酸化物は自動車の排気ガス等によりもたらされ、水分と反応してそれぞれ硫酸と亞硝酸が生じ、紙の酸化を促す事に繋がる。三番目に、接触している物からの移行があげられる。これは紙の支持体が原因であったり、挟み込まれた栞等が原因となる事もあるようである。いずれにしても、質の悪い材料が紙と接触する事で、酸が移行してしまう現象である。?フォキシング紙に発生する褐色斑を総称してフォキシングと言う。これは原因が一元的ではないとされ、カビや細菌、或は金属などに由来するとも言わ洋紙の保存と修復5