ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

と高い透明度と保水性という特徴を兼ね備えたアガロース・ゲルを比較しても遜色がなかった。ゲル構造は、温度、濃度、ゲル層の厚み及び、一価または二価陽イオンの有無に影響される。ゲランガムには2つのグレードがあり、アシル含有量の高さと低さは、それぞれ、ゲルの柔らかさと硬さに関係する。脱アシル化、または、アシル含有量が低いゲランガムが、保存修復処置に使用されている。それらはより強度のあるゲルを形成し、30 ? 50℃といったかなり低い温度でも硬化する。一方、高アシル・ゲルは、かなり高い温度でないと硬化しない。アシル基はゲルの特性に影響する。ゲランガムの紙に水分子を徐々に放出し、水溶性の劣化物質を次々に吸収する能力は最も有利な特性である。ゲランガムを通したゆっくり且つ一定の水分移動により、水分膨張効果は最低限に抑えられることができ、刻印やエンボス加工、表面質感といった多次元作品の処置時に関わる重要な考察も可能であるゲランガムの理想的な濃度は、紙の親水性次第である。適切なゲル濃度を選択するためには、保存修復家は紙製支持体の湿潤性を正しく評価しなければならない。これは紙の多孔性、繊維の種類、サイジングやコーティング、紙の保存状況などに影響されるものである。紙に吸収性(親水性)があればあるほど、使用するゲランガムの濃度が高くなり、そのため、水分の放出量が少なくなる(図29)。5-1ゲランガムの準備紙に描かれた作品にゲランガムを使用するには、ゲランガムの半硬化フィルムを作るため、通常2-4%の濃度で用意されることが多い。酢酸カルシウム(0.4g/L酢酸カルシウム)を加えたカルシウム塩水溶液に粉末のゲランガムを加える。粉末ゲルを食塩水の中で素早くかき回し、コロイド分散液を作る。蓋をしてから、分散液が僅かに黄色い透明な溶液になるまで電子レンジで温める。ゲルの水和作用は、75 ?100℃で完結する。溶液が熱く流れやすい間に耐熱トレーに注ぎ入れ、溶液が室温に下がると、硬化水性ゲルフィルムが形成される(図30a?d)。ゲランガムはカビが生えやすいが、約2週間、蓋をして冷蔵庫で保管することができる。ゲランガムはカルシウム塩水溶液がなくとも作ることができるが、硬度が低くなってしまう。しかしながら、低濃度ゲル中のカルシウムイオンの有無は、キャストフィルムを柔らかい状態でつかむとボロボロになる恐れがある。カルシウムイオンはゲル構造を安定化させ、硬く、扱いやすくする。同様に、水の純度もゲランガムが十分な硬度のあるゲルを形成すことができるかに影響してくる。ゲルの使い道次第では、低硬度で且つ低濃度のゲルが望ましい場合もある。5-2ゲランガムによるシミの軽減・除去紙製ドレスは凹凸が多く、質が悪い織りの紙が使用されており、黒い布製首回りとの接触によってシミがついていた(図31a、b)。アルカリ水にゲランガムを4%の濃度で溶解し、飽和した水酸化カルシウムを加えてpH8.0に調整し、1cmの厚さのフィルムを作成した。ゲルはメスで簡単に切ることができるため、部分的なシミの除去用に、正確にシミの形に切Lower gel concentrationHigher gel concentrationLess rigidMore rigidLow absorptionHigh absorptionHydrophobicHydrophilic図29ゲル濃度の計算64