ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

図4本、地図、古文書/写本保存修復研究室の様子図5『ニュー・ブランズウィック州図』、1813-1815年制作、51.5 x 90.0 cm、ジョン・ジョージ・トーラー(出版者)、LAC所蔵(MIKAN 4518116)、保存修復前。め、様々な技術が使用される。?欠損部の充填:オリジナルの土台の欠損断片を充填する方法。?没食子(もっしょくし)インク錆:本質的に破壊的であるこのインクが使用されている文書の安定化処置と処置手順。1.裏打ち裏打ちとは、様々な破れや欠損箇所の補強や、劣化や脆弱化した紙の強化等弱った支持体(本紙)に対して行う作業である。裏打ち方法を選択するにあたって、紙の種類や状態、紙と展色材の溶解試験の結果、作品のサイズや支持体の構造等を考慮する必要がある。例として『ニュー・ブランズウィック州図』と題した手書き地図を挙げる。この地図は非常に薄く破れやすい紙に描かれ、さらに木製の棒にきつく巻かれた状態であった(図5)。地図には油性樹脂混合液に含浸された半透明な風合いをした紙が使用されていた。紙から樹脂成分を溶剤処置で除去することで、紙の強度や柔軟性を回復させることが可能であったが、溶剤処置は紙の透明度に影響があるとの実験結果が出たため、代替案として、紙の透明度を維持しつつ強度を加えることを目的とした、軽量な和紙を用いた裏打ち方法が採用された。地図を徐々に加湿して裏打ちの準備を行った後、地図の構成部や剥がれた断片の配置を容易にするために、大型ライトテーブルの上で処置を実施した。まず始めに、破れや断片を配置し易くするために、控え目な裏打ちを行った。テリレンやダクロンと言った合成繊維を用いた裏打ち方法を参考に1)、ポリエステル繊維を裏打紙の一時的な支持体として使用した。この裏打ち方法の一番の利点は、作品の表面を上にした状態で裏打ちができ、かつ透過光により破れ目の位置合わせが容易になることである。ニュー・ブランウィック州図の例では、まず、高密度ポリエステル系合成繊維であるテリレンをライトテーブルに貼り付け、次に、薄めた小麦澱粉糊を二重にした楮紙(Shika Japanese Paper)にスプレーしテリレンに接着させた。裏打層である楮紙を乾燥させている間、地図断片を正確な位置へ配置する前に、ウォーターミストで地図を軽く湿らせ慣らし、マイラーの上に地図表面を下にして仮置きした。地図断片の位置を合わせてから地図の裏面と裏打紙に薄めた小麦澱粉糊をスプレーした。地図をマイラーごと移動させ、裏打紙の上に置き、裏打紙との接着を良くするためにマイラーの上から刷毛で撫でた。マイラーを丁寧に剥がし、地図を自然乾燥させた後、裏打紙の下に敷いたテリレンごとライトテーブルか洋紙の地図と文書、及びその他の洋紙の収蔵品の保存と修復の挑戦49