ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

を伴うため、化学的な安定化処置との併用が望ましいと提唱している12)。D. 鉄(II)イオン指示薬紙用カラーチャート16)このカラーチャートはカナダ修復研究所(CCI)で開発され、鉄(II)イオン指示薬紙と共に利用される。指示薬紙の変化した色とカラーチャートの色別表を見比べて値を出す。カラーチャートは4段階のマゼンタ色の濃淡で表され、色が濃い程、鉄イオン濃度が高いことを示す。カラーチャートはCCIより入手できる。リスク・グループ各国で行った研究調査と収集した情報の分析結果を基に、カナダの専門家らは没食子インク資料の劣化状況を4段階に分類することを提唱した12)。?リスク・グループI:当面の危険性はない?リスク・グループII:インクの退色の危険性がある?リスク・グループIII:インク焼けの危険性がある?リスク・グループIV:物理的損傷と欠落の危険性があるさらにツェとウォラーは上記の分類法モデルに加えて、そこで出た判定結果に対応する予防措置モデルを掲げている。そこには、化学的・物理的な安定化処置と予防的保存対策が含まれる。最後に、それぞれの状態に対応した安定化処置モデルをオプションとして提案する。この分類法は、段階的に表すことで、資料の判定基準を明確かつ容易にした12)。筆者は、このカナダの分類法の使用経験者である。没食子インクで書かれた資料の判定基準に優先順位をつける手法としてその有効性を示している。この分類法は資料の現状と将来的な危険性を検討するのに役立ち、インクの腐食による資料への影響を把握することができる。この3つのモデルはCCIの許可を得てスペイン語に翻訳され、メキシコで広く活用されている。さらに他のラテンアメリカ諸国でも有効的な活用が期待される11)。最終知見この20年余り、没食子インク資料の安定化に対する対処法は広く研究されてきた。そのため、広い選択肢の中から最適と思われる対処法をあらゆる観点から検証する必要がある。どの方法も何らかのリスクを伴うため、その善し悪しを熟慮し、決定することが求められる。鉄イオン過多の没食子インクの化学的安定化の処置として、現在最も有効なものは、ハン・ネイフェル(Neevel, H.)によって確立された、フィチン酸カルシウム、炭酸水素カルシウムとゼラチン(Bタイプ)を使用した方法である。水を使用した時間のかかる処置であり(その効果は安定化の処置時に使用する水の量により左右される)、大量処置や水溶性メディアのある資料には向かない。しかも銅イオンやその他の金属には安定化の効果はない。インク焼けが進行した資料やサポートの必要な資料には、物理的な安定化が不可欠である。鉄イオンや硫酸の移行を軽減するのに最適な方法は、有機溶剤で再溶解した補修紙(溶剤で水溶性の接着剤(Klucel Gなど)を事前に和紙に塗布し、エタノールで再活性する)の修復処置である17)。この方法による長期の安定化についてはまだ研究段階だが、化学的な安定化が不可能で、物理的な安定化を必要とする没食子インク資料の補修として、現段階で最適な処置方法である。没食子インク資料のコレクションの予防保的存対策は、資料の長期保存にとって間違いなく有効的である。たとえ直接的な関与が取れなくても、没食子インク資料の予防的保存対策は優没食子インクで書かれた資料の保存と修復45