ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

写真8指示薬紙による検証(メキシコ国立公文書館)では確認できない劣化の初期段階を発見し、危険性のあるインクを予知することが可能となる。C.バソフェナントロリン指示薬紙15)写真7 水性の科学処置による没食子インクの安定化(メキシコ国立公文書館)の劣化状態をわかりやすい4段階評価にして提案した。4段階評価はgood、fair、poor、badに分けられる。検査は本紙裏面で行い、一番劣化の激しい箇所も考慮に入れる9)。B. 没食子インクによる紙の劣化(紫外線反応)14)こちらもリースラントとグラーフが提案した分類法で、紫外線ライト(356nm)のもとで観察されたインクの劣化状況を7段階に図式化した。インク焼けの初期段階は肉眼ではほとんど確認されないが、紫外線ライトに当てるとインクの周辺に緑色の輪ジミが確認できる。劣化が進行するとこの蛍光色は黄色味を帯びる。劣化の最終段階(顕著な変色、オフセット、亀裂)では発光しなくなる。この検査方法を適用することによって、肉眼バソフェナントロリン指示薬紙(Bathophenanthroline indicator paper)はもともと没食子インクの同定のために開発された、鉄(II)イオンに特化した非水溶性指示薬である12),15)。即効性があり、高感度で(1ppmの二価鉄?)、容易に入手できる。取り扱いも簡単で、非破壊的である。バソフェナントロリン指示薬紙は紙媒体に直接影響を及ぼす鉄(II)イオンに特化する。しかし鉄(III)イオンも容易に鉄(II)イオンに還元されることから、将来的に問題を引き起こす対象物として、鉄(III)イオンに対応修正できる15)。それには、まずバソフェナントロリン指示薬紙を使って対象物をテストし、結果の出た指示薬紙に還元剤を使って鉄(III)イオンを鉄(II)イオンに還元させる。バソフェナントロリン指示薬紙で鉄(II)イオン濃度が高いインクは、低濃度のものより潜在的に腐食しやすい。リスク・アセスメントの提案者のツェとウォラーは、25ppmの鉄(II)イオン濃度をインク焼けの危険値と判断し、それより高い濃度の資料は水性の修復処置では危険44