ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

行を引き起こす可能性があり、水性の修復処置は資料をさらに危険にさらし、改善よりむしろ悪影響を及ぼしかねない。現在、没食子インクの化学的・物理的安定化には数種類の対処法があり、その中から資料ごとに最適な方法を選択することがもっとも重要である。没食子インク資料の主な安定化と修復の対処法を図1にまとめた。既に実践されているものとまだ研究段階のものを含む11)。貴重な資料を保存するアーカイブ、図書館、その他機関は、コレクションの保存と活用をどのように優先させるか方法論を設けることが重要である。これまでに、修復界ではリスク・マネジメントという予防的手法を取り入れて、多様なコレクションや資料に対応してきた。没食子インクの資料も例外ではない12)。没食子インク資料の診断にリスクモデルを適用することによって、資料あるいは全コレクションの現状把握と将来の危険性を予知し、予防することができる。没食子インク資料の診断にリスク・マネジメントの方法論を導入し発展させたのは、主にカナダのシーズン・ツェ(Tse, S.)とロベルト・ウォラー(Waller, R.)である。彼らは、リスク・アセスメントと対処法の具体的なモデルを提案した12)。モデル開発のため、ツェとウォラーはオランダ、スロヴェニア、オーストリア、アメリカとドイツの各種施設で没食子インクの調査結果を収集した。調査には、以下の状態評価や指示薬が利用された。A. ICN Condition Rating Chart(ICN状態評価チャート)13)オランダ国立文化財研究所(ICN)の研究員ビルギット・リースラント(Reissland, B.)とホッフェンク・デ・グラーフ(Graaff, H.)はインク図1没食子インク資料の対処法没食子インクで書かれた資料の保存と修復43