ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

写真4-6インク焼けの様子(メキシコ国立校文書館)水性の科学処置による没食子インクの安定化(メキシコ国立公文書館)一方で、劣化の範囲を大きく左右する要因が、インク成分の移行(マイグレーション)である。鉄イオンととりわけ硫酸は、セルロースと水との親和性があるため、高湿度環境で容易にインク部分からその周辺に移行する2),3)。このような移行は相対湿度の高い環境、事故、災害や不適切な修復処置といった水に直接接触することによって発生する。インク焼けによる主な症状?色の変化:没食子インクの過剰な鉄イオンは酸化することによって、元の黒色から次第にダークブラウン(濃い茶色)に変化する。?インク周辺の茶色輪ジミ:腐食の初期症状に見られる。セルロースの酸化が原因であり、鉄イオンと硫酸の移行が触媒となって反応が起きる3),1 0)。?オフセット(裏移り):硫酸は隣接するページに移行し、茶色に裏移りする。結果、文字が解読困難となり、ページの脆弱化をもたらす。この症状は、相対湿度が高いもしくは不安定な環境でよく見受けられる9),10)。?支持体の亀裂と欠損:インク焼けは最終的に亀裂(特にインク周辺箇所)を生じる。資料の頻繁な取り扱いはさらに状態を悪化させ、資料の損傷や欠落が拡大する。インク焼けは不可逆だが予防できる。そのためには、資料コレクションの特質と状態をまず把握し、評価基準を設定し、一貫して基準に従って対処することが大切である9)。没食子インク資料の状態評価没食子インクの性質や特有の劣化症状などから、水を用いた修復処置は、鉄(II)イオンと硫酸の移行を導く恐れがあり、ひいては資料全体に影響しかねない。部分的な加湿も同様に移42