ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

溶液に浸漬する水性脱酸性化処置を行い、処置後のpH値を@とさせた後に極薄楮紙で裏打ちを行った。いっぽう、ノート料紙は酸性紙であるものの、有識者との協議のうえで、現状は紙力もあり状態としては安定していることや、修理後は酸加水分解の生じにくい環境化で保管される事情などを総合的に判断し、積極的な処置は実施していない。3インク焼け部分の裏打・その他没食子インクに対する処置としては、本修理19)においてキレート処置が必要と判断された箇所はなく、水洗および極薄楮紙による裏打補強を数か所実施するに留めた。4セロハンテープ・ホチキスに対する処置貼付されたセロテープは硬化や変色、粘着剤の移動などの影響が懸念されるためプリザベーションペンシルなどを用いて除去し、残留した粘着剤は貼付場所や状態により溶媒を用いて溶解除去した。ホチキス針の錆については拡散が懸念される核部分のみ物理的に除去した。5背くるみ補修と糸綴じ補修背くるみの補修には、既製の製本テープを用いるのではなく、楮紙に木綿布を新糊で接着させた安定的な材料を新たに作製して使用した。この際の接着剤選定についても先の各種試験と同様に比較検討を行った20)。新糊、HPC、MC、膠をその対象とし、接着強度、こわさ(硬さ)、耐折試験、実用性などの総合的評価から判断した(図3)。現状の糸綴じ方法は原則的に踏襲し、修理前と同様の装丁で綴じなおした。解装を行う前に詳細な図式記録を行い、場合によっては同装丁の構造見本を製作したうえで作業に臨んだ。例えば、錯簡や落丁が生じている箇所については関係者によりその対応について協議を行った。本史料の場合、鎌倉氏が日常的に使用していたノートという特徴から、落丁(頁破り)につい図1 紙の種類と接着剤の種類が接着強度に及ぼす影響接着剤による剥離強度試験(楮紙+ノート)図2 接着剤塗布による材料の強度変化接着剤による耐折強さの変化(横方向)山之上理加・加藤雅人・小笠原温「接着剤を塗布した和紙の力学的性質について」文化財保存修復学会2014大会資料より抜粋図3 接着剤の種類がこわさに及ぼす影響和紙縦方向山之上理加、加藤雅人、小笠原温、中村春佳「ノートの背くるみ修復材料の検討」文化財保存修復学会2015大会資料より抜粋装?修理技術を応用した日本の近現代紙資料の修理35