ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

的手法を検討する。8修理において得られた調査記録、分析結果も含めて保存し、史料の活用に寄与する。3-4補修材料検討試験修理方針3に掲げた諸材料選定に係る試験や分析などについて、その目的と結果の一部を以下に述べる。本試験は、東文研と沖縄県立芸術大学との間における共同研究であり、必要に応じ得られた結果を修理に適用するという目的の下に実施された15)。紙質文化財に対し、補修、裏打、あるいは養生する際の材料や工法の選択については、本紙が和紙の場合は、装?技術が長い年月のなかで安全性や有用性を確立しているが、近現代の洋紙の場合は同様ではない。とくに本史料の修理においては、料紙中央の折り曲げ部分に生じている裂けの補修が不可欠であった。和紙に対する修理では、薄手の楮紙を小麦澱粉糊により接着する手法で確実な接着と柔軟な仕上がりを維持することができるが、洋紙においても同様に適用できるか、または他に最適な材料があるかどうかの検証が必要と考えた。また楮紙といっても、生産地や原料となる植物の産地、製造者によっても特徴は大きく異なることから、使用目的に即した紙質を選択する必要があり、さら16)に使用時の繊維方向についても検証対象とした。このような問題意識のもとに、本紙修理に使用する補修紙と接着剤を選択するためにさまざまな材料による組み合わせを試し、力学的評価を行った(写真17)。実験では、紙は楮紙と洋紙、接着剤は小麦澱粉糊(以下新糊)、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、HPC)、メチルセルロース(以下、MC)が用いられた。疑似本紙として用意した洋紙は、ドイツ製の針葉樹および広葉樹を原料としたノート、補修紙は手漉きの薄美濃紙とし、候補となる各種接写真17試験試料の作製風景着剤を塗布して接着した試料を用意し、日本工業規格(JIS)に基づいた耐折試験および剥離試験などを実施した17)。本試験の前に行った予備実験の結果から、各種接着剤は概ね実作業を想定した濃度とした。その他、背くるみ部分の補修材を想定した和紙を貼り付けた木綿布についても接着強度試験や耐折試験などを行い、各部に対する諸材料選定に関する客観的評価を積み上げ、判断根拠とした。3-5補修および保存修理方針及び上記実験結果に従い、修理の概要は以下のとおりとした。【概要】1料紙損傷(折損・裂損・欠失)部分の補修2酸性化の著しい史料に対する脱酸性化処置3インク焼け部分の裏打4セロハンテープ・ホチキスに対する処置5背くるみ補修と糸綴じ補修6防護措置-無酸・無アルカリ・無サイズ製の間紙の挿入-フォルダ、保存箱新調【詳細】(写真18 ? 21)1料紙損傷(折損・裂損・欠失)部分の補修実施した各種試験のうち、接着強度を測定す装?修理技術を応用した日本の近現代紙資料の修理33