ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

思われる劣化の進行(褐色化)が認められ、対面する頁にも色移りが確認できる状態であった。ノート料紙の表面pHは平均で4.0 ? 4.5、新聞紙やワラ半紙についてもpH4.0 ? 4.5であった8)(写真7、8)。写真7 pHストリップメルク社製による表面pHの計測1写真8 pHストリップによる表面pHの計測2また、様々な筆記媒体のうちインクについては二価鉄指示薬紙を用いた呈色反応試験(写真9)や独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所(以下東文研)による蛍光エックス線分析(写真10)などを実施した結果、その大半は没食子インク9)である事が判明したが、それらの測定値からインクによる影響は少なく、現時点では概ね健全と判断された。ただし、用いられているインクは使用者自身で作られた可能性が高いことや、一部のノートは水濡れの跡も確認されたため留意事項とした。形状面では、綴糸の断裂や表紙を留める背くるみの破損や剥離などにより、装丁に破損がみられるものが大半であった。装丁は、料紙を6紙前後重ねて中央部で縦折りしたものを一括とし、これを複数括重ね縦折部を糸で綴じる方法が採られており、和装本に見られる「綴葉装(てつようそう)」10)とほぼ同一であった。ただし、「綴葉装」の多くは料紙の上下2か所で、それぞれ1本ずつ計2本の糸を用いて綴じる(写真11)ことに対し、本史料では全体が1本の糸で綴じられている(写真12)という点が相違している。ちなみにノートの代表的な綴方法としては、現代のものに採用されているものを含めると「無線綴」11)、「中綴」12)、「ミシン綴」13)、「糸綴」14)などが挙げられる(写真13 ? 16)。その他人為的な要因で生じた損傷として、貼写真9インクの呈色反応試験写真10インクの蛍光エックス線分析(東文研による)装?修理技術を応用した日本の近現代紙資料の修理31