ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

いて製造されたものであるが、木材パルプを使4)用した洋紙といえども品質は多様でさまざまな種類の原料が用いられ、西洋で抄紙される洋紙と品質上に必ずしも同一でない点である。次に形状では、洋紙を利用した印刷物であるものの、掛幅装に装幀される教材類(『近代教科書関係資料』)や、綴葉装に類似する糸綴のノート(『琉球芸術調査写真附調査記録』)などにみるように、近世以前からの伝統的な文化財の形状の流れを汲むものがみられる点である。このように、日本において製造された近代の紙資料は、西洋における同時代の紙資料と品質・形状において同一視できないものであり、西洋東洋双方の伝統の融合の上に成立した多様性に富む文化財ということができよう。したがって、修理設計においては、対象文化財の品質・形状を把握する必要性を強調したい。3.近代紙資料の処置事例3-1概要ここでは、以下の重要文化財(美術工芸品)保存修理事業について、近代の紙資料に対する修理事例として報告する。(1)名称重要文化財(美術工芸品)琉球芸術調査写真〈鎌倉芳太郎撮影/〉附調査記録(写真1、2)(2)員数81冊のうち40冊(第1期分)(3)形状ノート(主として大学ノート、詳細後述)(4)法量目録番号1:20.4×16.0(cm)他39冊(5)時代大正13(1924)年?昭和2(1927)年(6)概要琉球芸術調査の実施に際し、鎌倉芳太郎が使用したノート類。調査対象の文化財の調書、関連資料の抄出、沖縄の風俗、方言などの聞き取り記録などが記され、太平洋戦争で大きく失われた、琉球国の芸術、歴史、民俗を考えるうえで重要な内容を含む。筆記媒体は墨、朱墨、複数種類のインク、鉛筆などさまざまで、ノートは鎌倉芳太郎による切継ぎ、改変などがみられる。また、一部に新聞紙などの貼込がある。(7)修理年度平成25(2013)年度? 27(2015)年度(第1期)、平成28・29(2016・2017)年度(第2期、予定)(8)方針各資料に固有の品質、形状、さらには劣化状況にできる限り即し、史料価値の保全、現状の維持につとめることを目的とした。固有の状況に対応した修理施工上には、前近代の文化財に対して用いてきた装?修理技術を採用することが適当と考えら写真1修理前の状態1沖縄県立芸術大学附属図書・芸術資料館所蔵写真2修理前の状態2装?修理技術を応用した日本の近現代紙資料の修理29