ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

はじめに東京文化財研究所保存修復科学センターでは、平成10年(1998)に開催した国際シンポジウム「近代の文化遺産の保存と活用」を契機に、以後継続して近代の文化遺産の保存修復に関する課題と対応を探ってきた。平成18(2006)年からは、多岐にわたる近代の文化財の活用手法に関する研究会を種別ごとに開催している。本書は平成26(2014)年11月に開催した、洋紙の保存と修復に関する講演内容をまとめたものである。始めに担当の近代文化遺産研究室の中山室長が日本における洋紙を使用した文化財の保存と修復に関する問題点を紹介した。続いて、元国会図書館副館長で現在学習院大学大学院非常勤講師の安江明夫氏より近現代紙資料の保存に関して図書館における現状についてお話いただいた。次に、(株)プリザベーション・テクノロジーズ・ジャパンの横島文夫氏から同社が手掛ける大量脱酸処理について、詳細に解説いただいた。続いて、(株)修護の小笠原温氏から、日本の装?技術を用いた洋紙の修復に関するお話を伺った。さらに、2014年当時メキシコ国立公文書館の修復部門の責任者であるアレハンドラ・オドア・チャヴェス氏(現メキシコ国立図書館)から、メキシコにおける洋紙の修復、特に没食子インクで書かれた書類の劣化と処置に関する講演をいただいた。最後に、カナダの国立図書館・公文書館のアン・フランセス・メイヒュー氏から、カナダにおける紙文化財の修復の取り組みをご紹介いただいた。当研究室では不動産や大型の近代文化遺産を対象に研究会を開いてきたが、一昨年から、音声・映像記録メディアの保存と修復や近代建築に使用された油性塗料、さらには御料車の保存と修復及び活用やテキスタイルの保存と修復などに焦点を当て、各界の専門家による講演をいただき、それらの文化財に対する理解を深めてきた。今回は、山本作兵衛の筑豊炭田の記録画や御堂関白記がユネスコの世界記憶遺産に登録され日本国内における紙を使った文化財の保存と修復に注目が集まったこともあり、当所において特に洋紙の保存と修復に関する研究会を開催したものである。洋紙の保存、あるいは劣化対策に関しては、書籍あるいは資料保存の世界では既にインク焼けの問題や紙の酸性紙化などへの取り組みが進められているが、文化財に対して適用する際には可逆性の問題など注意すべき点もあるのではと考えている。本書が保存手法や修復理念あるいは修復手法、活用のありかたなどについて役に立てば幸いである。平成28年3月31日独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所所長亀井伸雄はじめに1