ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

性化処理の対象外になる場合がある。そこで当社では、安全に脱酸性化処理作業を行うことを目的として、必要に応じた簡易補修処置を実施している。当社が行う簡易補修とはブックキーパー大量脱酸性化処理においてリスクとなるような箇所の補修である。例えば和紙と正麩糊を用いた破れなどの繕い、および麻糸などを用いた綴じ直しといった作業がある。また、製本資料のヒンジやジョイント部分(表紙とテキストブロックをつなぐ内側と外側)を和紙と正麩糊で補強したり、革装本のレッドロット(Red rot)を、ヒドロキシプロピルセルロースによって強化したりする作業も含まれる。これらの簡易補修では、1冊に対して概ね2時間から3時間程度を上限とした作業を主としており、30分から1時間程度の作業が最も多い。また、簿冊などの行政資料(2穴、4穴の紐綴じ)の場合はページ数も多いため、1冊に対して3時間以上の作業を実施する場合も稀にある。簡易補修作業に要する時間は、対象資料の紙質や保存状態によって異なる。このように当社が行う簡易補修とは、必要最低限の補修処置をできるだけ単純な手法によって作業することを意味しており、安全に脱酸性化処理できることを目標としている。また、紙資料の状態をブックキーパーの工程に耐えうる状態まで回復させることは、利用に供する際の破損リスクを低減させる効果と一致するものと考える。したがって脱酸性化処理によって劣化が抑制され、簡易補修によって損傷箇所を改善させることで、紙資料の将来的な利用性はより向上するものと思われる。簡易補修処置については、その意図と方法を所蔵者に明確に示した上で作業を行っている。しかし、なかには、上記の簡易補修の範囲では回復できない重度の劣化や損傷が含まれる場合がある。例えばページの一部が粉砕するまでに脆化した紙質や、水濡れなどの原因によってページが固着している場合、そして虫損が著しくページを開くことすら困難な場合などがある。このような甚大な劣化、損傷に対しては、高度な技術が求められるため、より専門的な修復処置を実施する必要性を所蔵者に伝えている。9.文書資料における記録材料万年筆やボールペン、スタンプなどの近代の様々な記録材料および紙質のサンプルに対するブックキーパー脱酸性化処理の影響を、アメリカにおいて検証した報告がある。同報告によれば、変色を呈した材質はガンボージ(黄色の色材)のみだった。また、青色の蛍光ペンがブックキーパーでは暗色化することがあったと報告されている27)。これらの材質は、アルカリ化が適さない記録材料であるが、青写真(Blueprint)も同様にアルカリ化が適さない材質と言われている。青写真は光に敏感で、容易に退色する。また、特にアルカリ性の高湿な環境下では変色等が促進される28),29)。したがって、青写真は脱酸性化処理を行うべきではない材質であり、保存環境に対する検討が重要な材質と言える。ジアゾタイプ(Diazo type)もまた、青写真と同様に光によって容易に退色し、アルカリ性環境下ではその劣化が促進されるといわれている29)。しかしながら、ブックキーパーおよびDAEの両者において、ジアゾタイプの劣化抑制効果が認められたという報告もある30)。公文書(行政資料)などでは蒟蒻版という軽印刷が明治時代以降の資料で散見される31)。蒟蒻版とは、着色力の強いメチルバイオレット(アニリン染料)で文字を書いた紙を、ゼラチン面に染着させて版とする軽印刷技術である。この印刷方法では100枚程度の印刷が可能であるといわれる32)。メチルバイオレットはアルカリ性環境で退色する傾向を示すが、ブックキーパー22