ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

小さくなる(図2)。また、脱酸性化処理を施した紙であっても、酸性化以外の要因によって紙は経年的に脆化するため、脱酸性化処理の効果は紙の脆化を遅らせるという説明が正しい。また、酸性化による脆化が深刻化する前に脱酸性化処理することによって、処理の費用対効果は向上する。なお、酸性化以外の紙の劣化要因を防除することによって、紙の寿命がさらに延びるということも考えられる。例えば、ブックキーパー脱酸性化処理を施した紙を5℃の環境で保管すると、30倍程度の延命効果があるという研究もある24)。7.ブックキーパー大量脱酸性化処理技術株式会社プリザベーション・テクノロジーズ・ジャパン(以下、当社と記す)は、アメリカのピッツバーグに所在するPreservationTechnologies L.P.(プリザベーションテクノロジーズL.P.以下、PTLP)の子会社として平成19(2007)年に設立した。当社は平成20(2008)年より、ブックキーパー大量脱酸性化処理サービスを日本国内の図書館、文書館などに向けて提供している。米国議会図書館は、ジエチル亜鉛DEZによる大量脱酸性化処理計画を断念した後に、ブックキーパー大量脱酸性化処理技術を採用した。この技術は1980年代にPTLPによって開発され、米国議会図書館によってブックキーパーの技術的な評価試験が1993年から1994年にかけて行われた25)。その結果、ブックキーパー脱酸性化処理は米国議会図書館が提示する各種の基準を満たし、1995年以降、PTLPは年間で平均すると25万冊程度の図書の脱酸性化処理を継続的に受託している。国内では、平成20(2008)年に当社が、ブックキーパー大量脱酸性化処理プラントをさいたま市に設置して以来、この7年間(平成27(2015)年3月末時点)でおよそ10万冊の図書、および67,000枚の新聞資料の脱酸性化処理を行った。当社の主な顧客は大学図書館、公共図書館、国立機関などである。ブックキーパー大量脱酸性化処理は、酸化マグネシウムの微粒子を懸濁させた非水性の液体(フルオロカーボン)に書籍や毎葉資料などの紙資料を浸漬させる。そして、同液剤が紙の繊維に浸透した後に液体だけを気化させることで酸化マグネシウムを脱酸性化剤として紙に定着させている。この酸化マグネシウムの粒子が空気中の水分と結合して水酸化マグネシウムとなり、これがバッファーとなって酸性紙の中の酸をゆっくりと中和する。大量処理用のチェンバーにて紙資料を液剤へ浸漬させる際、同処理は密閉されたチェンバーの中で行われ、紙資料は緩やかな液流にさらされる。したがって、議会図書館の仕様にもあるように、軽微な破れや亀裂のある紙資料は処理できるものの、表紙が外れていないこと、外れたページや破れたページが無いこと、ページ同士の固着が無いこと、紙質が過度に脆弱ではないことが大量処理を行ううえでの条件となる26)。また、ブックキーパーではチェンバーを用いた大量処理技術と、ハンドスプレーによって脱酸液を紙資料に噴霧する脱酸性化処理の2つがある。新聞紙サイズまでの毎葉資料や製本資料はチェンバー内で処理できるものの、チェンバーで処理できる資料サイズには限りがあり、大型の地図や脆弱資料はハンドスプレーによる脱酸性化処理の対象となる。8.簡易補修処置の有効性ブックキーパー大量脱酸性化処理の場合は、軽微な損傷箇所は紙で巻き、クリップなどで一時的に保護しながらチェンバー内で処理することが可能である。しかし、処理液の緩やかな液流に紙資料がさらされた際に、既存の損傷が拡大するリスクを持つ資料は、既述のように脱酸図書館および文書館における酸性紙の大量脱酸性化処理21