ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

理時間やコストについて検討を要する技術といえる。なお、大量の毎葉資料を自動的に機械処理する方法が既に考案されており、1980年代に開発されたビュッケブルグ法ではインクの滲み止め、脱酸性化、紙力強化が一連の処理工程において達成される16)。米国議会図書館(Library of Congress)は、所蔵する大量の酸性紙資料の保存対策として1970年代にジエチル亜鉛を用いたガス(気相)による大量脱酸性化処理の実験を行うが、臭気の残留や紙の変色、接着剤の劣化などが生じたため、その使用を断念した17)。その後、アンモニアと酸化エチレンを用いた気相処理であるBPA(Book Preservation Associatesブックプリザベーションアソシエイツ)が1980年代に開発されたが、脱酸性化の効果が安定せず、同技術も1991年に稼働を終えた18)。日本国内では前記のBPAの技術を改良したDAE(Dryammonia ethylene oxide processドライアンモニア酸化エチレン法)が1999年以降、稼働を続けている19),20)。その後、ガスによる脱酸性化処理技術の開発は海外において進展しなかったが、非水性処理による幾つかの大量脱酸性化処理技術が開発された。非水性処理とは水を一切含まない液体による処理方法を意味し、水を使用しないため製本材料でもそのまま処理することができる。非水性脱酸性化処理とは、アルカリ性物質を含む非水性溶液に紙資料を浸漬させ、アルカリ性物質を紙の繊維間に脱酸性化剤として定着させる技術である。非水性脱酸処理技術としては1970年代から1980年代にかけてWei T’o R(ウエイトー)、Sable(サブレー)、FMC(Lithco process)などの技術も開発されたが、変色や臭気の問題、そして使用する液剤の環境への影響といった問題が生じ、これらの技術は継続されていない。商業的に継続している最近の技術としてはPreservation Technologies(プリザベーションテクノロジーズ)のBookkeeper R(ブックキーパー)、C S C(シーエスシー)のP a p e r s a v R(ペーeパーセーブ)、Battele(バッテル)のBooksaver R(ブックセーバー)などがある1 5),1 8)。Libertec R(リベルテック)によって提供される脱酸性化処理技術では、書籍のページが均一に開くように置き、1冊ごとに酸化マグネシウムおよび炭酸カルシウムの微粒子を書籍のページに吹き付けることで紙を脱酸性化処理する。この技術は一般に固相処理技術と考えられるが、気相処理として分類される場合がある18)。6.脱酸性化処理の効果脱酸性化処理の目的は、酸性紙の酸を中和することによってセルロースの加水分解を抑制し、紙資料の寿命を延命することにある。しかしながら、内在する酸性成分だけが紙の劣化要因ではなく、酸素や光、熱による劣化が複合的に働いていることは、これまでに度々示唆されてきた7),2 1),2 2)。つまり、酸性化は紙にとって非常に大きな劣化要因であり、脱酸性化処理技術はそのような深刻な劣化要因を解消するものではあるが、全ての要因を解決する手段ではない。米国議会図書館における紙資料の大量脱酸処理に関する仕様書によれば、脱酸性化後の紙資料は現状の3倍以上の延命効果が期待されている23)。つまり、脱酸性化処理の効果は現在の紙質によって異なり、劣化した紙質ほど同効果は図2 酸性紙の脱酸性化処理の効果20