ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

写真1昭和16(1941)年刊行の日本の教科書写真2写真1の資料の顕微鏡写真。短い繊維が確認できる。写真3明治26(1893)年刊行の和紙製の本写真4 写真3の顕微鏡写真。長く柔軟性に富んだ繊維が確認できる。治期の和紙については、酸性化による紙力の低下が懸念される。5.脱酸性化処理技術アルカリ化による酸性資料の劣化抑制プロセスはウィリアム・バロー(Barrow, W. J.)によって1950年代から1960年代にかけて明確化され、紙中の酸を中和することで、利用寿命を拡大するための脱酸性化処理の必要性が広く認識されるに至った11)。その後、脱酸性化処理技術の開発は徐々に活発化し、後述のように1970年代から1980年代にかけて様々な技術が開発された。また、1990年代から2000年代には、商業的に稼働している各種の脱酸性化処理技術の材料、方法、コスト等を通じた比較、評価に関する活動も始まった12)-15)。これまでに開発された主だった脱酸性化処理技術について、水性処理、ガス(気相)処理、非水性処理の別に以下に概観する。水性脱酸性化処理はアルカリ性の水溶液に酸性紙を浸漬させながら中和する方法で、1960年代に既にバローがその具体的な方法を提案している11)。水性処理の利点としては紙の洗浄、中和、強化といった保存処置が一連の工程で達成できるため、毎葉資料の保存処置として有効な方法と考えられている。しかしながら、水溶液を用いる技術の場合は書籍などの製本資料の処理には適さず、処理前後に解体および再製本工程を要することから、大量処理の観点からは処図書館および文書館における酸性紙の大量脱酸性化処理19