ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

4.まとめ資料保存とは何だろうか。この初歩的な自問に対し、図書館・アーカイブズでは、近年の幾つかの重要な課題への対応から、次のように自答するようになってきた。図書館・アーカイブズにおける資料保存は、所蔵資料の現在と将来の利用を保証すること、あるいはそのために行う種々の営為である。図書館・アーカイブズの役割は、所蔵資料を必要とする市民・研究者に提供することにある。現在だけでなく、将来においても、継続的にコレクションをアクセス可能にしなければならない。そのために行う施策、取組みが資料保存である。そして、図書館・アーカイブズのコレクションは、どの機関においても膨大であることが一般的である。この、膨大なコレクションの継続的利用保証が、所蔵機関の責務である。この責務を果たすための取組みの柱となるのが、前節で記した「原資料性の尊重」「予防の重視」「コレクションの保存」「複製技術の活用」「プリザベーションのパラダイム」の5つ、と筆者は考えている。一方、文化財としての近現代紙資料の保存問題では、「原資料性の尊重」とともに、特に次の点を指摘しなければならない。それは、近代的紙資料には紙中の酸とリグニン、インク焼けの要因となる没食子インクなど、資料に内在する極めて手ごわい「敵」が存することである。本日、これから発表されるが、原資料保存のためには、酸性紙に対する中和処理、インク焼け防止のための抗酸化処置等を組み入れる必要がある。そしてこれらは基本的に、紙資料の劣化損傷を抑制し、延命化をはかる処置、即ち「予防」である点を理解することが重要である。注1)安江明夫「IFLAと資料保存」『図書館研究シリーズ』No.27,国立国会図書館,1987,pp.1-13.2)Ogden, S., The impact of the Florence Flood on library conservation in the United States of America, Restaurator, No.3, 1979,pp.1-36.3)(Ed)Church, R, W., Deterioration of Book Stock:Causes and Remedies ? Two Studies on the Permanence of Book Paper,Virginia State Library Publication, No.10, 1959, 70p.4)(Dir)Sanders,T.,(映画)SlowFires:OnthePreservationofHumanRecord,AmericanFilmFoundation,1987.5)安江明夫「現代に生きる図書修復の思想-「IFLA原則(1979)」を巡る考察-」『文化財保存修復学会誌』No.53,文化財保存修復学会, 2008, pp.54-66.6)安江明夫「アーカイバル・ボードの開発と普及」『百万塔』No.149, 2014, pp.16-27.7)資料保存研究会訳・編,『IFLA資料保存の原則』,日本図書館協会, 1987, 62p.8)木部徹監修,国立国会図書館訳,『IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則』,日本図書館協会, 2003, 154p.9)アラン・カルメス(Calmes, A.),木部徹訳,「アーカイブの紙資料保存―理論と実践」,http://www.hozon.co.jp/report/post_8484(アクセス日2015/09/01).10)デジタル技術がアクセス利便性に優れている一方で、長期保存性に重大な課題を有するために生ずるディレンマを「デジタル・ディレンマ」と言う。用語源は米国映画芸術科学アカデミー科学技術評議会報告書『The Digital Dilemma』(2007)である。The Digital Dilemma, Strategic Issues in Archiving and Accessing Digital Motion Picture Materials, The Science andTechnology Council of the Academy of Motion Picture Arts and Sciences, 2007, https://www.oscars.org/science-technology/sci-tech-projects/digital-dilemma(アクセス日2015/09/07).11)前掲7. pp.10-11.(訳一部修正)12)「JIS X 0701:2005情報及びドキュメンテーション-用語」は、ISO 5127-2001:Information and documentation-Vocabulary.を基に作成・制定された。16