ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

ル化の利用者満足度は極めて高い。とはいえ、「デジタル・ディレンマ」10)と言われるように、デジタル・メディアは長期保存の観点では脆弱である。この点は、今後の技術開発、経験の蓄積、種々の評価に待たねばならないところである。ボーン・デジタル(born-digital)図書・文書の長期保存を含め、図書館・アーカイブズ保存の最も重要な今日的課題である。3.5プリザベーションのパラダイム5つ目のポイントはプリザベーション(preservation)と言う新しい資料保存のフレームワークの創出である。「IFLA資料保存の原則」は1986年に改訂されたが、そこでプリザベーションが初めて明確に定義された。その定義を以下に記す11)。プリザベーション:図書館・アーカイブズ資料及びそれが含む情報を保存するための経営的・財政的な考慮のすべて。これには保管・設備の整備、職員の専門性、政策、技術、方法が含まれる。コンサベーション:図書館・アーカイブズ資料を劣化、損傷、消失から守るための個々の方策と実務。技術系職員が考案した技術と方法を含む。修復:経年、利用等により損傷した図書館・アーカイブズ資料を補修する際に技術系職員が用いる技術と判断。上記定義は、以下に示す2000年制定のISO「情報及びドキュメンテーション─用語」12)でほぼ踏襲された。プリザベーション:資料またはコレクションの全体性を維持し延命をはかるためのあらゆる方策。財政的・政策的判断を含む。コンサベーション:劣化を予防、抑制、遅滞させるために適用される介入技術。修復:劣化・損傷を被った資料を、実践可能の範囲で出来るだけ元に近い状態に戻す行為。1986年以来、図書館・アーカイブズの世界では、プリザベーションとコンサベーションを区別して定義し、使用することになってきた。それに伴い、補修等の保存処置に携わるプロフェッショナルをコンサバターと呼び、一方、図書館・アーカイブズの資料保存業務統括者をプリザベーション・アドミニストレーターあるいはプリザベーション・ライブラリアン等と称するようになった。保存マネジャー、保存統括担当者と称しても良いだろう。コレクション保存調査、資料の補修計画、保管環境整備、マイクロ化・デジタル化、職員・利用者向け保存教育、防災計画の立案、リスクマネジメント、他の図書館等との連携等が保存マネジャーの職務である。多くは手仕事であるコンサバターの職務と基本的に異なることが理解されよう。この保存業務の統括者に拠って、コレクションの保存ニーズ調査の実施、中期的・長期的保存計画の策定等、も実践される。プリザベーションのパラダイムについては、以下を託す必要がある。それは従来、資料保存は既にコレクションとなった資料・情報を対象としてきた。しかし酸性紙問題に起因して、従来の遡及的保存とともに、今後、コレクションに加わる資料・情報の保存課題─将来的保存─に取り組む必要が出てきた。短命の酸性紙ではなく長命の中性紙を図書・文書の素材として使用するのは、この将来的保存の取組みのためである。マイクロ化の場合の支持体をTAC(三酢酸セルロース)からPET(ポリエチレンテレフタレート)へと転換するのも同様の取組みである。今後、デジタル文書等の保存においても、この将来的保存の考え方が、デジタル文書を標準的フォーマット、保存メタデータ付きで作成する、長命のメディア(媒体)を使用する、などにおいて重要となってくる。近現代紙資料の保存―図書館・アーカイブズの視点15