ブックタイトル未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

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概要

未来につなぐ人類の技15 洋紙の保存と修復

近現代紙資料の保存―図書館・アーカイブズの視点安江明夫学習院大学非常勤講師/元国立国会図書館副館長1.はじめに-文化財・文化遺産と図書館・アーカイブズ図書館・アーカイブズのコレクションの殆どは近現代紙資料であり、それゆえ紙資料の保管・保存はこれらの機関の基盤業務となっている。ただ、本研究会のテーマに即して考えると、図書館・アーカイブズのコレクションのすべてが文化財・文化遺産というわけではない。この違いは押さえておく必要がある。とはいえ、図書館・アーカイブズのコレクションを文化資産あるいは歴史資源と呼ぶことは適切だろう。その多くが後世に遺され、将来において利用可能であることを求められているからである。その意味で、図書館・アーカイブズのコレクションは文化財・文化遺産と同様の概念を持つ。資料保存に関して、もう1点、押さえておくべき違いがある。それは、図書館・アーカイブズにおいては、資料は常に利用可能にすべきものという点である。それが希少で貴重な資料であろうと、さらには重要文化財指定資料であろうと、利用者の資料請求に応じて提供する義務を図書館・アーカイブズは負っている。時に原資料ではなくその複製物の利用を勧められることがあり、また利用に一定の手続きを要する場合もある。それでも利用者の求めに応じて資料を提供するのが図書館・アーカイブズの責務であり、かつ存在理由でもある。この点は博物館などの一般的な文化財保存機関の場合と異なるだろう。博物館などでは資料・モノが一般の来館者に提示されるのは展示などの場合にほぼ限られる。来館者はそれを手にして閲覧、あるいは調査することはできない。即ち、所蔵資料へのアクセスの点で、図書館・アーカイブズと文化財保存機関の重要な相違が認められる。この点は図書館・アーカイブズと博物館などにおける資料保存の取組みに大きく影響してくる。上記を最初に押さえたうえで、以下、図書館・アーカイブズにおける資料保存について論を進める。2.図書館・アーカイブズにおける資料保存の進展ほかの文化財機関とも共通するだろうが、この40年ほどの間に図書館・アーカイブズの資料保存は飛躍的に発展してきた。その契機となったのは、1つは1966年のフィレンツェ水害であり、もう1つは特に1980年代以降の酸性紙問題である。既に多くの解説があるこれら2つの契機については詳述を避けるが、1966年のフィレンツェ水害は大量の貴重な図書館資料が被災し、多くの欧米諸国の資料保存専門家・専門機関が協力してその救済に取り組んだ。そこから重要な新しい発想、理解、取組みが世界規模で発展してきた。IFLA(International Federation of LibraryAssociations and Institutions国際図書館連盟)、ICA(International Council on Archives国際アーカイブズ評議会)の資料保存活動もフィレンツェ水害を起点とする1), 2)。もう1つの契機である酸性紙問題は、従来の「書物の敵」―即ち紙資料保存の敵―とは異質近現代紙資料の保存―図書館・アーカイブズの視点11