ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

ますが、そのことに関してどのようにお考えですか。このような問題提起は我々の間でもよく話題になることで、ひとつの考え方としては、作品自体の保存というよりは記録をとるということです。保存することが困難な作品については、映像やドキュメントとして記録する方法もあるのではないかと思っています。メトロポリタン美術館では、学芸員の数が比較的多いこともあり、映像作品や書籍など、すでに劣化が始まっている作品に対して、関連するありとあらゆる記録を集めようという試みを始めています。テキスタイルの分野においても、ファッションデザイナーたちが積極的に新しい素材を採用するなかで、我々もこうした問題に対して、学会やシンポジウムなどを利用して一緒に考えていくようにしています。(クリス・ポロスィック)このような素材については、現代の保存科学の知識を持ってしても、劣化を止めることができずに、すでに多くのものを失っている状況です。まず、ひとついえることは、果たしてそのような作品を購入する必要があるかどうか判断できるよう、学芸員を教育するということです。それから、博物館・美術館の方針としても同じことがいえ、そういった作品に投資することが必要かどうか考えなければいけません。V&Aでも記録の取り組みは行っていますが、情報に関してバランスがとれていない点があります。例えばオークションで作品を購入する場合は、他の博物館・美術館もいるなかで、情報と時間が不足していても購入を決定しなければならないこともあります。また、保存が困難な作品に対して保存し続けるか、あるいは処分するか学芸員が判断を下す際に、その作品の寿命に関する情報が不足しているのが現状です。こうしたことから、やはりコレクションに対する方針を再検討する時期にきているのではないかと思っています。ただし現時点では、受け入れた作品は永久的に保存し展示するという博物館・美術館の哲学があるため、さまざまなリスクを引き受けたうえで所蔵するということになるとは思います。(マリオン・カイト)日本の場合、学芸員とコンサヴァターの立場が明確にわかれていません。あるいは、コンサヴァターが不在の状況で、学芸員がいろいろなことすべてを鑑みながらコレクションを選んでいくことが多いのが現状かと思います。我々の施設にもコンサヴァターはいませんし、保存修復の知識というのもありません。そのなかで、コレクションをどのように形成して守っていくか、というのが我々の方針の一つにもなっています。我々が経験から得た結論としては、限られた予算のなかで、そして自分の責任の範囲内で100年間、保存することができない作品は購入しないという選択をします。ただし、我々の施設は教育・研究機関にありますので、古いものだけでなく、新しい素材も触れていきながら学生の創造性を触発していきたいという思いもあります。コレクションを永久的に保存していくのか、また劣化し鑑賞に耐えられなくなったもの、教育現場で活用できなくなったものを将来的に処分するということもありうるなかで、どのようにそのような作品を保存していくのか、というようなことを考えながら進めている現状です。(研究会参加者)72