ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

こす可能性がある。ドライクリーニング溶剤ペルクロロエチレンでクリーニングすると、ポリ塩化ビニル素材が収縮、硬化するおそれがあることもわかった。このように可塑剤が除去されると、生地が脆化し、作品自体に割裂が生じるおそれもある。4.1コンサヴァターは何をするべきかこれまでに実施してきたコレクションの調査を通して、様々なプラスチックを確認したが、極端な劣化状態にあった作品はそのうちの少数であった。特に問題になるのは、硝酸セルロース、酢酸セルロース、ポリウレタン(特にフォーム)、ポリ塩化ビニル(可塑化)、およびゴムを素材とする作品である。初期のプラスチック製作品はリスクが高かったが、その後の技術革新により、今ではプラスチックの安定性も高まっている。4.2劣化の要因ゴムとプラスチックは絶えず劣化するので、コンサヴァターは劣化の要因を軽減することが重要である。そして簡単な予防策によって、影響を受けやすい作品の平均寿命を延ばすことがで写真11 表面のひび割れReproduced by kind permissionof the Bata Shoe Museum, Toronto, Ontario.きる。光はゴムやプラスチックの主な劣化要因の一つである。そのため、脆弱と判断された作品については、展示会であれ、貸し出し時であれ、光への曝露をできる限り避けなければならない。一般に光度が強いほど、劣化のスピードは速い。照度は150 lx以下、紫外線量は75 w/lm以下に維持するのが望ましい14)。また、高温多湿の環境も劣化を促すおそれがある。セルロースエステル、カゼイン、ナイロン、ポリエステルなどの可塑性素材は、水分を吸収して膨張し、また振動により収縮することがある。これらの素材は、一定の適切な湿度または低湿度で保管するのが望ましい。一般に、温度が高いほど劣化のスピードも速い。相対湿度は45 ? 55 %に維持し、絶対に65 %を超えてはならない。また、展示場では熱を発する照明を使用してはならない15)。4.3隔離と換気いくつかのプラスチックは、化学分解により硝酸セルロースから酸化窒素、酢酸セルロースから酢酸、加硫ゴムから硫黄を放出する可能性がある。揮発性生成物を放出する可能性のある作品は、隔離し有害な気体の充満を防ぐために適切な換気を行う必要がある。つまり、作品から異臭が発生したら、揮発性化合物を放出していることを意味する。これらの揮発性物質は、金属の腐食や繊維の退色など、隣接する材料に影響を及ぼす可能性があるため、保管場所では十分な換気を行う。また、硝酸セルロースを含有する作品は箱に収納してはいけない。梱包すると、劣化が加速されるだけである。クレゾールレッド・インジケーターでは、硝酸セルロースの劣化によって生じる酸化窒素を検出できる16)。なお、劣化が進行中の硝酸セルロースの作品は可燃性であることに注意しなければならない。こうした作品は、火災の原因になるおそれがあるため、撤衣装コレクションにおける現代の素材67