ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

揮発性物質を生成することが少なくない。ゴムは、熱帯植物の乳液から抽出される強弾性の高分子物質で、合成的に生成することもできる。既にゴムは一般名となっており、それぞれ目的の異なる物質が添加された様々なエラストマーがこれに含まれる8)。ウエストバンド、靴、肩パッド、胸パッド、コルセット、下着などの衣装に弾性素材としてゴムが使用されることがある。また、ゴム底靴やコート類にも広く使用されている。演劇用の衣装においては、それがラテックスの場合、着脱を容易にするためにタルカムパウダーが塗布されている可能性がある。我々は、弾性を失い、時に柔らかく粘着性を帯びているゴム製品の例をコレクションの中で数多く見てきた。ゴムの劣化は、たるみ、崩壊、歪み、割れ、ストレッチマーク(伸縮により生じる線の出現)などとして現れる。1960年代から1970年代には、屋外用の衣服やアクセサリーにゴム引きのコーティングがよく使用された。これらのコーティングは、時間経過に伴って固化、硬化して作品の変形を起こしがちである。我々の展示会「スーパーヒーローズ」で展示されたゴム製衣服には、表面に「ブルーム」と呼ばれる灰色系または白色系の沈着物が認められるものがあった。通常、これは添加剤が表面に移動したものである。時に、表面の粘着を防ぐために散布するタルカムパウダーが原因になることもある。3.2ポリウレタン問題が生じているコレクションのその他の素材には、1950年代に商業用に製品化されたポリウレタンが挙げられる。ポリウレタンは、接着布、発泡体、スパンデックス、合成スウェード、撥水性素材、皮革様生地など、多様な素材に用いられている9)。そして衣服に限らず、ベルト、靴、ブーツ、財布、帽子などにも使用された。ポリウレタンは、もともと肩パッドや胸パッドに広く使われる素材であったが、1960年代には水着や下着のゴム材に代わる素材として活用されるようになった。1970年代には接着ラミネート布に、1980年代初期にはポリウレタンフォームでできたウルトラスウェードRにも使われた。ポリウレタンの特徴的な劣化の徴候としては、変色、黄変、粉砕、脆化がある。劣化が始まると、ポリウレタンフォームは層間剥離と呼ばれるベース生地からの分離を起こす。このような劣化の例は靴や財布に多く見られ、最終的に表面のひび割れが生じる(写真10、11)。我々は、スニーカーのポリウレタン部分が粉々に分解されているのを目撃したことがある。この劣化は、酸素やオゾンへの曝露による化学分解の結果である10)。ウレタン素材は、可塑剤が表面に移動すると粘性を帯びるものが多く、時に白色粉末を形成するものもある。我々は、可塑剤が原因で周辺素材の退色や金属の腐食が生じた例を確認したことがある。また、ドライクリーニング溶剤で接着剤を軟化させて層間を結束させても、表面に歪みが生じる可能性がある。3.3ポリ塩化ビニル1913年、価格上昇を続ける天然ゴムに代わる合成素材としてポリ塩化ビニルが開発された。当初は、布地の防水塗料とみなされていたが、その後、皮革様素材として衣服やアクセサリーに広く使用されるようになった。ポリ塩化ビニル生地には光沢があり、耐水性であるため、コート、靴、ジャケット、エプロン、バッグ、スキー用品に使用されている11)。ポリ塩化ビニル製衣服は、ゴス、パンク、フェティッシュやオルタナティブファッションに多い。ポリ衣装コレクションにおける現代の素材65