ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

写真8 劣化した扇子1写真9 劣化した扇子2我々は調査を行い、アクセサリー収蔵室でコレクションの系統的評価を行うインターンを採用した。同定はジフェニルアミン試験を採用して行われた4)。2.2硝酸セルロースの劣化調査の過程で、我々は硝酸セルロースに特徴的な劣化の徴候を確認した。劣化の様態としては、変色、粉砕、脆化、破砕がある(写真7?9)。硝酸セルロースが原因で隣接する金属部材が腐食した例は、櫛や財布に見られる。他に、硝酸セルロース製ボタンがその下にあるアセテート生地に退色・漂白作用を及ぼした例があった。硝酸セルロースの使用が認められた作品は隔離部屋に収納して十分な換気を施し、劣化状態を定期的に監視することが望まれる。劣化の速度は材料の厚さに比例する。作品の劣化が起きているかどうかを判定するには、化学的インジケーターとしてクレゾールレッドを使用する。このインジケーターが赤色に変化したら、それは酸化性酸の存在を示している5)。劣化している作品は、可燃性であるため、撤去してケミカルキャビネットに収容し、処分の決定を待つ。多くの施設では、劣化している硝酸セルロース片は袋に入れて冷凍庫または冷蔵庫に収容している。1921年に可燃性の硝酸セルロースに代えて酢酸セルロースが導入された。酢酸セルロースには、化学反応により酢酸を放出する性質がある6)。コレクションで酢の臭いがすることがあるのは、この物質のためである。このような劣化は、時に「ビネガー・シンドローム」とも呼ばれ、フィルムアーカイヴズによく見られる現象である。酢酸セルロースを使って製作された作品は隔離収納して換気することが望まれる。A-Dストリップは、「ビネガー・シンドローム」を検出・測定するために開発された染色紙片で、有用なインジケーターである。A-Dストリップは、酸性蒸気が放出されると変色するもので、イメージ・パーマネンス・インスティテュート(Image PermanenceInstitute)で入手できる7)。3.1ゴム1989年に私が初めてコスチューム・インスティテュートを訪れ、収蔵庫を通り抜けようとした時に、独特の臭気を感じたことがあった。臭気の発生源を突き止めて箱を開けると、1970年代に製作され、劣化したゴム引きワイヤー編みの着用する美術作品が見つかった。この時に、我々はこの種の素材の問題に気が付き始めたのである。直ちに我々は、劣化している作品の所在を確かめ、箱に収納して移動する作業に着手した。劣化している作品は、隣接する作品に影響を及ぼし損傷を引き起こすだけでなく、64