ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

の服飾作品に関する諸問題について話し合い、解決策を案出した。これらの専門家集団は有益な視点を提示し、現代服飾の問題の大きさが明らかになったのである1)。1.2新素材の評価数年間にわたるウィリアムズ氏との共同作業により、コスチューム・インスティテュートの保存修復研究室は、現代の服飾作品の素材同定、修復処置、展示、保管のための戦略と手順を策定した2)。コスチューム・インスティテュートの保存修復研究室では、1998年以降以下の手順に従って新素材の評価を行っている。a)問題を特定する:特に硝酸セルロース、酢酸セルロース、ゴム(天然および合成)、ポリ塩化ビニル(可塑化)、ポリウレタン(フォーム)の劣化について。b)様々な素材の同定方法を確立する:スポット試験、燃焼試験(ジフェニルアミン試験、バイルシュタイン試験など)を採用し、より信頼性の高い結果が必要な場合にはFTIRなどの機器を用いる。c)化学的に不安定な特性を持つ作品はケミカルキャビネットに収納する。もしくは霜取り不要冷蔵庫または冷凍庫に保管する。d)急速に劣化が進んでいる作品については再度入手を検討する。e)有害な素材の同定、分離、除去には、長期的なプランで取り組む。f)修復処置および保管のガイドラインを定める。g)一定種類の新素材に関するコレクション方針と展示・貸出要件を見直す。2.1硝酸セルロース我々が最も懸念したのは、硝酸セルロースを使った作品だった。硝酸セルロースは可燃性で、隣接する素材にとって有害な腐食性の酸化ガスを生成するからである。硝酸セルロースは、財布、扇子、日傘の柄、襟、ボディスのステイ(留め金)、スパンコールやボタンなどの装飾品、布地やマネキンのコーティングなど、多様な用途に使用される(写真6)。我々のアクセサリー保管庫は、櫛、財布、および扇子など、大量の硝酸セルロースを使った作品を収納していたため、リスクも大きかった。硝酸セルロースのような半合成物質は、19世紀中頃から出回っている。スパンコール、ビーズ、装飾品には、ゼラチンを含む多種多様な天然・合成素材が単独で、もしくは硝酸セルロースとの積層合成材として使用される。熱、水、湿気、ドライクリーニング溶剤を使った処理は、こうした装飾品を傷つけるおそれがあるため、同定が不可欠である3)。写真6 硝酸セルロースの櫛写真7劣化したボディスのステイ衣装コレクションにおける現代の素材63