ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

写真4ウィリアムズ氏との調査1写真5ウィリアムズ氏との調査2対応せざるを得なくなった。デザイナーたちは素材や構成の試行錯誤を重ねて創作の限界に挑もうとしていた。こうした服飾作品の多くは、欠点が多く長期間の使用に適さない一過性の素材で構成されていた。このような“束の間(forthe moment)”の作品群が、次第に世界各地のデザイナーアーカイヴズ、コレクション、展覧会に登場するようになった(写真1?3)。学芸員やコンサヴァターは、第一にこうした作品をファッションの総合的記録資料として保存するべきかを判断し、その倫理とそれにかかわる費用を検討する必要がある。1.1新素材テキスタイル・コンサヴァターは何をするべきか。現代の作品をどのように保存するか。現代の作品における新素材の劣化に関連する諸問題に遭遇した我々は、かつての同僚でCCIの保存科学者であったスコット・ウィリアムズ氏(Scott Williams以下、ウィリアムズ氏)に協力を要請した。彼は、メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートに収蔵された20世紀の作品に関する諸問題を検討するために、1週間のコンサルタントを務めた(写真4、5)。我々はウィリアムズ氏と共に、いくつかのファッションハウスを訪ね、最新のランウェイコレクションを視察した。その目的は、作品の素材や管理、手入れの方法について、それぞれのデザイナーから直接情報を得ることだった。ファッションの世界は熾烈な業界として知られており、多くのデザイナーはコピー商品の流通を避けるために、作品に関する情報の占有権を握っている。そのため、たとえ衣類の管理や手入れに関する情報でも入手するのは困難だった。しかし、ニューヨークのイッセイ・ミヤケでは、コレクションにおいて象徴的な作品の多くに劣化問題が発生していることに気づき始め、それらの対処方法についてアドバイスを求めていた。そのため、コレクションの中からホログラムを使用した衣服について、我々に調査の機会を与えてくれた。その後の調査で、ウィリアムズ氏は携帯型のフーリエ変換赤外分光器(FTIR)を持ち込んだ。FTIRは、作品に使われるプラスチックの化学的分析や、現場での素材の精確な同定のために非破壊的検査を行うことができる。調査を通して我々は様々な問題や素材に遭遇したため、「服飾コレクションにおける現代の合成素材の管理と保存(Care andPreservation of Modern Materials in CostumeCollection)」に関するシンポジウムとワークショップを開催することを決意した。シンポジウムは、1998年にメトロポリタン美術館にて開催され、科学者や学芸員、ドライクリーニング業者、デザイナー、テーラーを招請し、現代62