ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

テン地のサンドイッチにはオリジナルのサテン地の裏に、同色に染めた厚羽二重の生地をあてて、表にはクレープラインを乗せて、傷み具合を見ながらモノフィラメント糸でステッチして留めていった。縫目は生地の擦り切れに対して垂直に施し、傷みがひどい部分は1 ?2 mmなど細かく、それほどひどくない場所は1.5 cm間隔など調整しながらステッチを入れていった(写真17)。また、体側に来るタフタには、やはり布全体に点在する擦り切れと、その厚みを考えて、クレープラインと薄羽二重の2枚の布で挟む全面サンドイッチ法を用いることにした。サンドイッチ法の場合には、オリジナルを含む3枚の生地をそれぞれ地の目を合わせて重ねることが大変重要になる(写真18)。ステッチに使うモノフィラメント糸は透明感があるので、ドレスを展示する際に目立ちにくく、また適度な強度があり、使用することが多い。この作品の生地の補修方法の検討と決定についてまとめると、表地の方は展示した時の強度が増し、裂けの進行を防ぎつつ、さらに外見的にもオリジナルの雰囲気を壊さないようコンディションに合わせた部分裏打ち補修を行い、その後、シルクチュールを全面に裏打ちした。アンダースカート部分は、生地のコンディションがかなり悪く、ドレスの縫目を一旦ほどいて全面的に補修が必要と判断した。アンダースカートのサテンやタフタ地は、このまま放置しておくと劣化が進み、端切れや粉状になり、オリジナルが失われてしまうことが予測された。そこで、スカート部分には、「各ピースに一度ほどいてから、全面サンドイッチする」という補修方法を用いることにしたが、これは、部分的に傷んだ場所だけにこの補修を行うと、補修箇所の周囲からさらに傷みが広がってくることを予測した結果の判断である。この方法により、オリジナルの欠損予防と補強が期待できる。3装飾部分の補修ドレスのボディス、スカートの表布全体に付いていたスパンコールやラインストーンは、不足分を新しいもので補わず、落下していたオリジナルと、残っていて糸が切れそうなものを留め直した。スパンコールには大きさの種類が大小あったが、表地のスパンコールが付いていた箇所には、緑青の跡がそれぞれ丸く付いていたので、スパンコールの大きさと位置が分かりやすくなっていた。付け直す際には、スパンコールに付いていた緑青を柔らかいコットンジャージーでふき取ってから付け直した(写真19)。また、カットワーク部分から覗くチュールの生地にはラインストーンが付いていたが、欠損箇所については、ラインストーンが残っている写真14写真15ウォルトのドレス(1900年頃)の補修と収蔵品の保存について55