ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

くらますことの可能なPVCを使用したブローチェア(Blow Chair)を発表し、大量生産した。そのデザイン哲学は、1960年代中頃のポップカルチャーと使い捨て社会に触発されたもので、この椅子も長期間の使用を想定したものではなかった。V&Aが収蔵する製造から50年あまりを経たブローチェアは、萎んでおり、PVCには微小な孔が空いていることがわかった。そこで、小さなPVCの継ぎ(パッチ)とパラロイドR B72を用いて、孔を塞ぎどうにか修理を行ったのである。多くの「プラスチック」の椅子には、詰め物としてポリウレタンフォームが使用されており、さらにそれを合成繊維素材で覆っている。高分子の劣化は経年により発生するため、コンサヴァターは、家具に使用されているこのような新素材にも注意を向けている。エーロ・アールニオ(Eero Aarnio)のグローブチェア(Globe Chair 1963年)の保存修復処置グローブチェアはボールチェアとも呼ばれ、心地よい「部屋の中の部屋」を形成するように、シンプルで幾何学的な球形にデザインされた椅子である。球体自体はガラス繊維で作られ、その内装は隙間なくフィットした布張りで、クッションフォームもテキスタイルで覆われている。クッションフォームは、劣化して粉末状に変化せずに柔軟性を維持しており、テキスタイルのカバーには、摩耗はないもののたるみが生じていた。クッションのカバーをフォームパッドに接着するため、メーカーが使用した接着剤は完全に劣化し接着能力を失い、そのために布地のたるみが生じていたのである。それゆえに、保存修復処置では、主にテキスタイルをクッションフォームに再接着し、デザイナーの当初の意図のように、テキスタイルに張りのある内装を再現することになったのである28,29)。結論今日のテキスタイル保存修復には、多種多様な素材や製造工程についての深い知識を持ち、異なる文化、信仰および分野の作品を理解することが必要である。これは、保存修復に取り組む全ての人々にとっての挑戦ともいえる。しかし、それは価値のある、実りある挑戦となるであろう。補遺新素材─プラスチックの略史1862─硝酸セルロース1899─カゼイン1907─フェノール系素材(ベイクライト(Bakelite))1927─酢酸セルロース1932─酢酸酪酸セルロース1929─尿素ホルムアルデヒド(ビートル(Beetle)、バンダラスタ(Bandalasta)、リンガロンガ(Linga-longa))1935─メラミンホルムアルデヒド(メラミン樹脂)ポリ塩化ビニル(PVC 1928 USA,1939 UK)ポリメタクリル酸メチル(プレキシグラスR(Plexiglas R)、パースペックスR(Perspex R)1928ドイツ,1934 UK)ポリエチレン(PE 1935 UK,1942 USA)ポリスチレン(1930ドイツ,1937 USA)ポリアミド(ナイロン1935 USA,1939 UK)ポリウレタン(1937ドイツ)ポリテトラフルオロエチレン(テフロンPTFE 1938)エポキシ樹脂(1943)ポリプロピレン(1954)ポリカーボネイト(レキサン?(Lexan?)、マクロロンR(Makrolon R)1958)合成素材─戦後複合素材─繊維強化高分子素材共重合体素材─特定の目的のために製造された素材(医療用、スポーツ用品/ウェアなど)生分解性高分子素材─分解(劣化)するように製造されたもの46