ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

ページ
44/80

このページは 近代テキスタイルの保存と修復 の電子ブックに掲載されている44ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

近代テキスタイルの保存と修復

写真3硝酸セルロースでコーティングされたゼラチン素材のスパンコールのイヴニングドレス写真4ビーズ刺繍のシルクベルベットドレス強度を失って崩壊に至る11)。細部に注目すると、ガラスビーズの損傷、塩の発生、そしてシルクベルベットの退色を明瞭に確認できる(写真5)。パコ・ラバンヌ(Paco Rabanne)によるデザインのディスクドレス(1967)1967年にパコ・ラバンヌがデザインしたディスクドレスには、別の種類の化学的損傷が認められる。この作品は、多数の軽量かつ硬質のプラスチックディスクで構成されており、表面が反射するように、箔もしくは玉虫色のコーティングが施されている。この2種類のディスクは、真鍮のリングを網状に組んだ支持体と一体になっている。FTIRにより、ディスクの素材が酢酸セルロースであることが確認され、XRFでは箔が銀であることが判明した。箔はディスクの片側のみに塗布されていた。この箔が施されたディスクには、摩耗や擦過傷が認め写真5 写真4の塩類の発生ガラスビーズが起因となった「ガラス病」によるビーズとシルクベルベットへの損傷られ、真鍮のリングが通る孔にはカーリング(巻き)や割裂も見られた。カーリングは、大気中の湿度による加水分解、酢酸放出、そして可塑剤の喪失を原因とする化学分解の典型的な徴候であり、ディスクに収縮や歪みを起こし、そのために真鍮のリングが引っ張られていたのである。補強のための処置は、メリネックスR(Melinex Rポリエステルフィルム)とラスコー498HV42