ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

刊行にあたって東京文化財研究所保存修復科学センターでは、平成10(1998)年に開催した国際シンポジウム「近代の文化遺産の保存と活用」から始まり、近代の文化遺産の保存修復に関する問題点と解決策を探ってきた。平成18(2006)年からは、文化財の活用方法を探る研究会を開催している。本書は平成25(2013)年11月に、近代テキスタイルの保存と修復に関して、美術館・博物館の保存修復部門の方々、研究機関の補修室の方、そして染織品保存修復士であり当研究所の客員研究員をされている方をお招きし、当所の地下セミナー室においてご講演いただいた内容をまとめたものである。最初に私から、近代テキスタイルを研究会のテーマとして取り上げることとなった経緯を説明し、美術館・博物館の保存修復部門や修復工房を視察したヨーロッパでの現地調査の報告をした。続いて、当所の客員研究員で、染織品保存修復士である石井美恵氏から、テキスタイル保存修復の歴史とその変遷、および現在の動向についてお話いただいた。次に、イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の家具・テキスタイル・ファッション保存修復部門の主任であるマリオン・カイト氏から、博物館におけるテキスタイル保存修復の現状と、具体的な保存修復と展示の方法についてご講演いただいた。続いて、京都服飾文化研究財団の保存・補修担当の上山尚子氏より、財団の保存に関する状況や取り組みと、修復事例を詳細にご発表いただいた。最後に、カナダのロイヤル・オンタリオ博物館のテキスタイル・衣装の主任コンサヴァターであるクリス・ポロスィック氏から、服飾コレクションにおける合成素材についての調査と修復事例に関するご報告をいただいた。当研究室では、不動産や大型の近代文化遺産を対象に研究会を開いてきたが、近年では、音声・映像記録メディアの保存と修復、近代建築に使用された油性塗料、そして御料車に関する研究会を開催してきている。これらは、これまでどちらかと言えば見過ごされてきた文化財の保存と修復に積極的に関わって行こうとする現れであり、今回は近代テキスタイルに目を向けた。近代テキスタイルは文化財の重要な構成要素となることがあるが、伝統的な衣装である着物と比較すると、その価値が議論されることが少なかったように思われる。そのような近代テキスタイルに関して、その保存手法や修復理念あるいは修復手法、活用のありかたなどについて、本書が何がしかでも役に立てば幸いである。独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所保存修復科学センター近代文化遺産研究室室長中山俊介2