ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

トロ基(-NO2)、アゾ基(-N=N)などの部位もち、分子は比較的大きく平らな構造をもつ。染浴には助剤として電解物(水中で溶解してイオンになる)の硫酸ナトリウム(芒硝)とメーカー指定の均染剤を加える。イルガラン(Irgalan)とラナセットR(Lanaset R)37)は1:2型の金属錯塩酸性染料で、アミド系繊維のタンパク繊維毛や絹やナイロンと親和性がある。1:2型の金属錯塩染料はスルホン酸基をもつ染料母体2分子の間に金属(Cr 3+、Co 3+など)原子が1つ配位結合している。繊維のアミノ基をプロトン化(H +)し、水中でマイナスにイオン化した染料を塩結合させるために弱酸性(pH4, 5)から中性浴中で染色する。ラナセットRは金属錯塩染料と反応染料であるラナソールR(Lanasol R)を1:2の割合で混合している。酸性染料に比べて染むらになりやすいのでよく布や糸を攪拌する必要がある。レバフィックスR(Levafix R)とレマゾールR(Remazol R)38)は反応染料でセルロース系繊維と親和性がある。反応染料は、分子にジクロロトリアジニル基などの反応性の活性基をもち、アルカリ水溶液中でセルロース繊維を染めると、セルロースの水酸基(-OH)と染料がエーテル結合(-O-)する。繊維と染料がこのような共有結合をするため、耐光性や耐洗濯性はよいが、擦れに弱い。染色は中性の染浴で繊維に染料を吸収させ、次にアルカリ浴で染着させる。二浴法と一浴二段法があり、反応性によって高反応性低温型と低反応性高温型とに分けられる。繊維と染料には化学的な相性があるので、繊維に適した染料を選ぶ。そして合成染料は各メーカーの染色方法に従って染色するのが原則である。4.保存修復材料としての洗剤(界面活性剤)イギリスでは1970年代から非イオン界面活性剤のシンペロニックR N(Synperonic R Nノニルフェノールエトキシレート)が使用されていたが、生分解性が低いために1995年にヨーロッパ連合の基準で使用できなくなった。また北米では陰イオン界面活性剤のオーバスR WAペースト(Orvus R WA Pasteラウリル硫酸ナトリウム)が主流で、欧米ではもっぱらこの2種類が使われてきた。アベッグ財団のように化学染料以外の合成素材を極力修復で使用しない方針の研究所ではサポニンも使用されている。イギリスでは代替品を探すためにフィールズ(Fields,J. A.)らが24種類の洗剤を汚れ落ち、起泡性、そして残留した場合の布の黄変化の加速劣化試験を行い、5種類の界面活性剤が染織文化財の洗浄剤として適していると報告した(表4)39)。その後、シンペロニックR Nの改良品であるシンペロニックR A7(Synperonic R A7 CAS No.6813-39-5)が販売され、またCMC濃度が低く界面活性剤の量が少なく済む非イオン系のトリトンRX-100(Triton R X-100 CAS No. 900-93-1)、トリトンR XL-80N(Triton R XL-80N CAS No. 680603-2 5 - 8)、ブリッRジ35(Brij R 35CAS No. 9002-92-0)、ブリッジR 700(Brij R 700CAS No. 9005-00-9)、エソファット242/25(Ethofat 242/25 CAS No.65071-95-6)が候補として挙がっている40)。界面活性剤が保存修復材料として試験され、素材、汚れ、使用方法に応じて使い分ける時代となった。しかし、実際にどのような基準で選ぶのか(例えば、汚れの種類を重視するのか、繊維や染料への影響を重視するのかなど)については判断基準が定まっておらず、さらなる研究が必要である。さらに洗浄で使用するもう一つの材料である水については、CCIがテキスタイルと紙の洗浄に使用する水質の研究をしている。それによると水の使用目的(各種処置や実験等)と水質が目的物に与える影響(色の変化、金属の腐食など)の観点から、例えば洗浄、酵素、漂白、染色等の用途に応じた水(蒸留水、イオン交換水、近代におけるテキスタイルの保存と修復27