ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

の認識が広がった。ただ1950年代に金属錯塩や反応性の堅ろうな合成染料が開発されるまでは、合成染料は不安定で、天然染料が併存して使用されてきた。現代の博物館収蔵品の保存では「すべての変更箇所は、資料および標本の原品の部分と明確に識別する」33)というガイドラインが国際博物館会議(International Councilof Museums ICOM)により示されている。それに従えば、同素材同技法による復元的な修復は将来において判別が難しくなる、また合成染料と同じ堅ろう性の基準を天然染料が満たさない、さらに色合わせが難しいなどの理由で、欧米では天然染料で修復材料を染色することはあまりしない。テキスタイルの保存で使用する染料は、1.耐光堅ろう性がある(光で退色しにくい)、2.洗濯堅ろう性がある(色移りしない)、3.染色後に薬品が残留し、染織品を損傷させない、4.幅広い色と明暗が得られ、色の再現性がある、5.安全に、簡易に、安価に染色できるのが条件である。染料を選ぶ指標となる染色堅ろう度とは、染色した色の「抵抗性」(色の変わりにくさ)を評価した数値である。試験方法は、国際標準規格(ISO)、日本工業規格(JIS)、米国繊維化学技術・染色技術協会(AATCC)などが定めており、概ね共通性がある。標準的な検査では、光、洗濯、擦れに対す抵抗性を調べ、染色した色の「変退色」(変色する、白くなる)と、周囲への色移りの「汚染」を確認する。試験結果は等級化(グレード)され、光に対する堅ろう度は1から8級、洗濯堅ろう度は1から5級まである。数が大きいほど抵抗性は大きく(変化しない)、小さいほど抵抗性が小さい(変化する)。どちらもグレードの中間にあたる3,4級が実用に耐える基準である。なお、染織文化財は修復後に洗濯することが想定されていないので、展示光源下で退色しにくい条件として、光堅ろう度5級以上の染料が推奨されている34)。高い(良い)低い(悪い)光堅ろう度841級洗濯堅ろう度531級テキスタイルの保存領域で使用されている主な合成染料を表3に示す。ソロフィニルR(Solophenyl R)35)とシリアスR(Sirius R)36)は直接染料で、セルロース系繊維と親和性がある。主な化学構造としてスルホン酸基(-SO3H)、ニ表3テキスタイルの保存領域で使用されている主な合成染料繊維名称種類メーカー推奨三原色光堅牢度メーカーSolophenyl R直接染料Yellow ARLEBordeaux 3BLEBlue TLE555ハンツマンセルロース系綿、麻類Sirius RLevafix R直接染料反応染料Yellow K-CFScarlet KCFBlue K-BEYellow CABrrilant Red CABlue CA5?645?65?65?65?6ダイスターRemazol R反応染料Brilliant Yellow GL 150 %Brilliant Red BB 150 %Brilliant Blue BB 150 %5?65?65?6ポリアミド系タンパク質、毛、絹、ナイロンIrgalanLanaset R1:2型金属錯塩酸性染料1:2型金属錯塩酸性染料と反応染料の混合Yellow 3RLBordeaux ELGrey GLNYellow 2RRed GGrey G6?766?75?65?66特許切れのためメーカー多数ハンツマン26