ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

しているタイベックRに、軍服の種類やもしその軍服が傷んでいるならどこがどのように傷んでいるのかを、実際の場所の上にペンで書かれており、わざわざカバーを外さなくても軍服の状態がわかるように工夫されている点である(写真24)。3-7アベッグ財団ベルンから電車とバスを乗り継ぎ、リッギスベルグに位置するアベッグ財団(Abegg Foundation)を往訪した。アベッグ財団は、イタリア北部の織物工場で成功し、工場を売却して財をなした後にコレクターとして名を馳せたヴェルナー・アベッグ夫妻(Werner and Margaret Abegg)のコレクションを中心に展示している美術館である。修復施設も併設されており、スタッフは15名、受け入れている学生・研修生は15名である。学生はベルン応用科学大学(BerneUniversity of Applied Sciences)に属しており、毎年1名を受け入れている。学士課程3年、修士課程2年の5年コースである。収蔵品は古代から19世紀までの染織品で、主に絹織物である。現代の染織品は含まれていない。修復施設は充実しており、修復の際には、できるだけ天然素材を修復材料としているが、必要な場合には極細のポリエステル糸等も使用する。接着剤は極力使用せず、できる限り糸と針による修復を行う。クリーニングに使用する洗剤は、天然由来のサポニンと逆浸透膜濾過水を使用している。また、有機系溶剤も使用している。は、博物館所蔵品と個人やホテル等の所蔵品を扱う部門は別々に作業場が設置されている。修復所に設置された大型の自動洗浄装置は、サクションテーブル型で、上部に設置されている洗浄液噴霧器からイオン交換水を噴霧する(写真26)。洗剤は、中性洗剤と陰イオン界面活性剤の混合物を使用している。水および洗剤の噴霧と同時に下から吸い取る形式のため、色のしみだし等が起こった場合でもシミが広がらずにすむ。水および洗剤の噴霧装置は前後に移動可能で、洗剤の種類や量、水の噴霧量などを事前に試験し決定したうえでその仕様に設定すれば、あとはほぼ自動で洗浄を行う。洗浄終了後は、次の作品が待っていなければその場で吸引し続けて乾燥させる。しかし、絨毯などは乾燥するのに時間がかかるため、別室で乾燥を行う(写真27、28)。フランスの美術館や博物館で染織品の修復室が設置されているのはリヨン織物装飾芸術博物館(Museum of Textiles and DecorativeArts Lyon)、パリ装飾芸術美術館(Museum ofDecorative Arts)、ガリエラ美術館(GallieraMuseum)の3館のみである。シュバリエ・コンサヴェイションでは、ルーブル美術館(LouvreMuseum)のイスラム美術部門の絨毯コレクションの修復も行っている(写真29)。3-8シュバリエ・コンサヴェイションシュバリエ・コンサヴェイション(ChevalierConservation)は、パリ市内にある4代続く工房で、タペストリーや絨毯を扱うギャラリーに染織品の修復所を併設している(写真25)。文化財の染織品を預かるだけでなく、ホテルや公共施設、個人住宅で使用されている大型絨毯などの修復や洗浄も請け負っている。修復所内写真25シュバリエ・コンサヴェイションReproduced withChevalier Conservation’s authorization.テキスタイルの保存と修復15